「最近の若い奴は、って言いたくはないんですけどね」
その言葉で、オンラインの相談が始まった。
画面に映っているのは、スーツ姿の男性。
名は古田和久(ふるたかずひさ)。
年の頃は40代半ばで、大手家電メーカーの中間管理職だ。
W.Naviと名乗るフクロウのアバターは、今日も変わらず──ゆっくりと首をかしげ、時折まばたきをしながら、静かにその言葉を待っていた。
「私自身、あまり上司に恵まれた方じゃなかったんで、部下にはそうなりたくないと思ってるんです。なるべく意見を聞いて、寄り添って、きちんと話をして」
彼は一度、目線を伏せる。
「でも……最近の若手って、“共感”を求めるわりに、こちらが歩み寄ろうとすると“それは古い”とか“ズレてる”とか。あれ、俺が悪いのかな?って。だんだん、こっちが何も言えなくなってくるんです」
フルタは言葉を切ると、背もたれに体を預け、重たげに息を吐いた。
画面越しに映る姿は、中間管理職というより、どこか迷子のように見える。
「言葉を選びすぎて、結局なにも伝わらない。…なんだか、疲れるんですよね」
フクロウのアバターは、ひとつだけ、まばたきした。
「正直、腹の底では思ってるんです。いや、それでも昔よりずっと働きやすくなったんだぞ、って。誰も『おまえは使えない』なんて怒鳴らないし、理不尽な体育会系ノリもないし、定時で帰れるし。でもそれを言うと、『昭和の価値観』って言われる」
彼の言葉は、だんだんとほつれ始める。
「でも、本音を言うと、最近、怖くなるときがあるんですよ。若手にとって、“自分は頼りにならない上司”なんじゃないかって。今の子たち、無理してつきあってるんじゃないかって。そう思うと、もう、声をかけるのも慎重になってしまって…」
言葉の後半は、やや弱音に近い。
「……何が正解なんでしょうね? 最近の若い人たちに対して、上司としてどう接したらいいのか、もうわからなくなってきて」
静かな間。
そして、W.Naviが静かに口を開いた。
「フルタさん。そもそも“共感”って、必要だと思いますか?」
その問いに、フルタが少しだけ首をかしげた。
「いや、できれば、とは思いますけど……でも、正直、わからないです。世代も違えば、価値観も違う。無理に共感しようとしても、嘘くさいだけかもしれません」
フルタの声には、どこか諦めにも似た響きがあった。
彼の肩が小さく落ちた瞬間、画面の中のフクロウの眼差しが、ふっと鋭さを増したように見えた。
「共感は、いりません。でも、“理解”は、必要なんです」
場が、静かに変わった。
「では……なぜ“理解”が必要なのか。そのお話をしましょう」
古田は一瞬、戸惑ったように画面を見つめ、やがて、ゆっくりと頷いた。
後編につづく