「先生、うちの子、最近毎日通ってるんです。なんか、自習室が楽しいって……不思議ですね」 新大久保の2LDK。 ちゃぶ台に置かれた電話の向こうで、保護者の声がふわっと響く。 島田タクミは、鼻の穴を広げながら呟いた。 「やっ […]
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第7話:シマダ節、完全再起動
第6話からのつづき ──その日、タクミは朝から機嫌が良かった。 印刷屋から、名刺が届いたのだ。 これまでの手書き名刺とは違う。 オフホワイトの光沢紙、角丸仕上げ、片面カラー印刷。 島田巧 関東学力増進機構 塾長 進学戦略 […]
Continue reading第6話:質問教室、再び
第5話からのつづき JR大久保駅・南口。 線路沿いを新宿方向に歩いて1分。 駅からは近いが、やけに空気が雑な通りだ。 韓国食材店、安居酒屋、怪しいリラクゼーションサロン。 その合間に「第一教科書」という地味な書店が、ひっ […]
Continue reading第5話:池袋、赤いビルの魔窟
第4話からのつづき 東京・池袋。 東口の雑踏を抜け、裏路地へ入ると、それはまるで場末の闘技場だった。 薄汚れた赤いビル── 教材会社『日本進学開発センター株式会社』の事務所は、その5階にあった。 「初出勤でいきなり営業部 […]
Continue reading第4話:東京行き夜行バス
第3話からのつづき 「あんちゃん、そろそろ限界やで……」 イトウ八郎が、珍しく真顔で言った。 事務所の白い壁は黄ばんで、ポスターの角がめくれていた。 あの「質問教室」のホワイトボードは、今やスケジュールではなく、支払い予 […]
Continue reading第3話:質問教室、始めました
第2話からのつづき あれから数年の歳月が過ぎた。 大阪の町にも徐々に冷たい風が吹き始めていた。 タクミはコンスタントに月数本の契約を取ってはいたが、少しずつ時代の潮目というものを肌で感じはじめていた。 そう、教材を売るだ […]
Continue reading第2話:教材の訪問販売
第1話からのつづき その男の名は──伊藤八郎(いとう・はちろう)。 だみ声に、口の端にこびりついたヤニ。 真夏のアスファルトみたいに焼けた肌。 蝶ネクタイに派手なスーツ。 まさにコテコテという文字を絵に描いたような大 […]
Continue reading第1話:タクミ大阪に立つ!
風が冷たい。 夜明け前の大阪駅前で、島田巧(しまだたくみ)は、黒ずんだ革靴のかかとを引きずるように歩いていた。 靴底には、ガムテープ。 何度も貼り直しているため、すでに輪郭がボソボソにほつれている。 ズボンの膝も薄くなり […]
Continue reading第14話(終):起爆剤来たる
第10話からのつづき 西新宿のタワービル内。 メディカルデラックス本部。 曇天の光が、応接室のガラスに鈍く反射していた。 「……また一人、辞退ですか?」 スタッフの報告に、エゾエ慎太郎は無言で頷く。 このところ、連日の面 […]
Continue reading第13話:花火の人
受験業界では通称「メディデラ」と呼ばれている医学部専門予備校・メディカルデラックス。 その本部ビル10階、午後3時を少し過ぎた頃。 ガラス張りの面接室に、ひときわ目を引く姿が現れた。 ギラリと光るネイル。 濃いめのチーク […]
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