第8話からの続き ゴールデン街の裏通り。 夜風が少しだけやわらいだ頃、ゴンドウ龍太郎は“あの店”のドアを静かに開けた。 ──スナック「うらがわ」。 かつてテレビにちょっとだけ出ていたという噂のあるママが、一人でやっている […]
Continue readingカテゴリー: ゴンドウ龍太郎の苦笑い
第8話:東池袋ブリーフケース
第7話からのつづき 雨がしとしと降っていた。 春の終わりと初夏の境目、街はまだコートと傘の両方を欲していた。 ゴンドウは、東池袋の交差点を渡る。 背中には例の、角ばった大きなリュック。 中には名簿の束と、東芝製のノートパ […]
Continue reading第7話:主役と脇役
第6話からのつづき 都内某所──川沿いの倉庫跡地に建てられた灰色の6階建てビル。 その最上階にある一室。 分厚いカーテン、応接セット、クリスタルの灰皿に山積みの吸い殻── 関東学力増進機構(カンゾウ)の「塾長室」だった。 […]
Continue reading第6話:突然の解雇
第5話からのつづき ゴンドウが勤務していた教材会社の名前は── 「桜教育サービス株式会社」 大学受験用の教材を制作・卸販売し、全国の中学・高校・予備校に配布している会社だった。 問題集、解説集、模擬試験セット── とにか […]
Continue reading第5話:徳富ノリコの肩もみ
第4話からのつづき 徳富典子(とくとみのりこ)── かつて、生命保険業界で「伝説」とまで呼ばれた女だった。 1年目から頭角を現し、2年連続で全国1位のセールス。 生保レディの頂点と言われていたこともあった。 ゴンドウがま […]
Continue reading第4話:名簿屋の地味な夜明け
第3話からのつづき 「……あの、企画案、これで出しておきます」 コピー用紙を3枚重ねて、上司の机に置く。 旅行代理店での5年目。 配属されたのは、国内パッケージツアーのプランニング部門だった。 地味な業務ではあったが、文 […]
Continue reading第3話:主役じゃないということ
第2話からのつづき 昭和から平成に時代が変わる直前、権藤龍太郎(ゴンドウリュウタロウ)は、旅行代理店に就職した。 業界No.6の中堅企業。 華やかさこそないが、堅実で、倒産することはなさそうな会社だった。 配属先は、本社 […]
Continue reading第2話:地味な春の光
第1話からのつづき ゴンドウの大学生活の4年間── それは、特筆すべきことが何ひとつ起こらない時間だった。 所属していたのは「会計研究会」──通称“カイケン”。 会計といっても、やっていることは簿記の演習と、月に一度の飲 […]
Continue reading第1話:平塚ブルース
本名は、権藤龍太郎(ごんどう・りゅうたろう)。 初対面でフルネームを名乗ると、たいていこう言われる。 「なんか、政治家かフィクサーみたいな名前ですね」 それもそのはず、名字は画数の多い「権藤」、名前も「龍太郎」という仰々 […]
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