カテゴリー: タクミ -1.0

第8話:逆にスゴい塾

「先生、うちの子、最近毎日通ってるんです。なんか、自習室が楽しいって……不思議ですね」 新大久保の2LDK。 ちゃぶ台に置かれた電話の向こうで、保護者の声がふわっと響く。 島田タクミは、鼻の穴を広げながら呟いた。 「やっ […]

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第7話:シマダ節、完全再起動

第6話からのつづき ──その日、タクミは朝から機嫌が良かった。 印刷屋から、名刺が届いたのだ。 これまでの手書き名刺とは違う。 オフホワイトの光沢紙、角丸仕上げ、片面カラー印刷。 島田巧 関東学力増進機構 塾長 進学戦略 […]

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第6話:質問教室、再び

第5話からのつづき JR大久保駅・南口。 線路沿いを新宿方向に歩いて1分。 駅からは近いが、やけに空気が雑な通りだ。 韓国食材店、安居酒屋、怪しいリラクゼーションサロン。 その合間に「第一教科書」という地味な書店が、ひっ […]

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第5話:池袋、赤いビルの魔窟

第4話からのつづき 東京・池袋。 東口の雑踏を抜け、裏路地へ入ると、それはまるで場末の闘技場だった。 薄汚れた赤いビル── 教材会社『日本進学開発センター株式会社』の事務所は、その5階にあった。 「初出勤でいきなり営業部 […]

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第4話:東京行き夜行バス

第3話からのつづき 「あんちゃん、そろそろ限界やで……」 イトウ八郎が、珍しく真顔で言った。 事務所の白い壁は黄ばんで、ポスターの角がめくれていた。 あの「質問教室」のホワイトボードは、今やスケジュールではなく、支払い予 […]

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第3話:質問教室、始めました

第2話からのつづき あれから数年の歳月が過ぎた。 大阪の町にも徐々に冷たい風が吹き始めていた。 タクミはコンスタントに月数本の契約を取ってはいたが、少しずつ時代の潮目というものを肌で感じはじめていた。 そう、教材を売るだ […]

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第2話:教材の訪問販売

第1話からのつづき   その男の名は──伊藤八郎(いとう・はちろう)。 だみ声に、口の端にこびりついたヤニ。 真夏のアスファルトみたいに焼けた肌。 蝶ネクタイに派手なスーツ。 まさにコテコテという文字を絵に描いたような大 […]

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第1話:タクミ大阪に立つ!

風が冷たい。 夜明け前の大阪駅前で、島田巧(しまだたくみ)は、黒ずんだ革靴のかかとを引きずるように歩いていた。 靴底には、ガムテープ。 何度も貼り直しているため、すでに輪郭がボソボソにほつれている。 ズボンの膝も薄くなり […]

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