あれから十数年の月日が流れた。 高田馬場、川沿いの灰色の6階建て雑居ビル。 その最上階、カンゾウ(関東学力増進機構)の心臓部、島田タクミの「塾長室」。 応接セット。 分厚いカーテン。 そして、中央に鎮座する巨大な黒いデス […]
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第11話:進出!高田馬場
──それは、総本部のちゃぶ台会議から始まった。 アカザワは、タクミの前に分厚い書類の束を叩きつけた。 「シマダさん、ここです」 「……どこや、これ?」 「高田馬場。徒歩7分。築20年。雑居ビル。しかも今、5フロアまとめて […]
Continue reading第10話:風はバブルの彼方から
──1990年代、大久保。 バブル崩壊後の東京は、あらゆるものが色を失っていた。 新宿から徒歩圏内、線路沿いのこの街も例外ではない。 シャッターを下ろした店舗。 誰もいないオフィス。 空きビルに、薄汚れた「テナント募集中 […]
Continue reading第9話:カンゾウシステム爆誕
それは、まったくの偶然だった。 「先生、漢文、全然わかんないっす……」 ある日の自習室。 駒沢仏教科のバイトが座禅を組みかけている隣で、高校2年の男子がノートを広げ、眉間にしわを寄せていた。 タクミは、それを横目で見なが […]
Continue reading第8話:逆にスゴい塾
「先生、うちの子、最近毎日通ってるんです。なんか、自習室が楽しいって……不思議ですね」 新大久保の2LDK。 ちゃぶ台に置かれた電話の向こうで、保護者の声がふわっと響く。 島田タクミは、鼻の穴を広げながら呟いた。 「やっ […]
Continue reading第7話:シマダ節、完全再起動
第6話からのつづき ──その日、タクミは朝から機嫌が良かった。 印刷屋から、名刺が届いたのだ。 これまでの手書き名刺とは違う。 オフホワイトの光沢紙、角丸仕上げ、片面カラー印刷。 島田巧 関東学力増進機構 塾長 進学戦略 […]
Continue reading第6話:質問教室、再び
第5話からのつづき JR大久保駅・南口。 線路沿いを新宿方向に歩いて1分。 駅からは近いが、やけに空気が雑な通りだ。 韓国食材店、安居酒屋、怪しいリラクゼーションサロン。 その合間に「第一教科書」という地味な書店が、ひっ […]
Continue reading第5話:池袋、赤いビルの魔窟
第4話からのつづき 東京・池袋。 東口の雑踏を抜け、裏路地へ入ると、それはまるで場末の闘技場だった。 薄汚れた赤いビル── 教材会社『日本進学開発センター株式会社』の事務所は、その5階にあった。 「初出勤でいきなり営業部 […]
Continue reading第4話:東京行き夜行バス
第3話からのつづき 「あんちゃん、そろそろ限界やで……」 イトウ八郎が、珍しく真顔で言った。 事務所の白い壁は黄ばんで、ポスターの角がめくれていた。 あの「質問教室」のホワイトボードは、今やスケジュールではなく、支払い予 […]
Continue reading第3話:質問教室、始めました
第2話からのつづき あれから数年の歳月が過ぎた。 大阪の町にも徐々に冷たい風が吹き始めていた。 タクミはコンスタントに月数本の契約を取ってはいたが、少しずつ時代の潮目というものを肌で感じはじめていた。 そう、教材を売るだ […]
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