第6話からのつづき
冬が、終わった。
東大の合格発表。
掲示板の前に立ったリョウスケは、何度も自分の受験番号を探した。
けれど、どこにもなかった。
滑り止めで受けた私立大学には2つ合格していた。
だが、リョウスケの目に、それらの通知書は、ただの紙切れにしか見えなかった。
夕方、白井家。
リビングに家族が集まり、父・忠志が口を開く。
「おい、どうする? 一応、明治と法政は合格してるが、もうそこに決めてしまうか?」
リョウスケは、少しの間、視線を落とした。
そして、静かに、けれどはっきりと答えた。
「……俺、もう一年頑張りたい。カンゾウで頑張るよ」
父は少し驚いたように眉を上げ、すぐに穏やかに言った。
「そうか。お前が決めたことなら、仕方がない」
母、タカコも、テレビで見せるような作られた笑顔ではなく、素の顔でうなずいた。
「そうね、その意気よ。今度こそ、東大に入ってちょうだい」
4月から高3になる妹のカレンが、無邪気な声を上げた。
「お互い受験生同士、一緒に頑張ろう!」
リョウスケは、かすかに笑った。
(ああ、また、ここからだ)
心の奥で、そうつぶやいた。
机に向かい、リョウスケは静かにペンを握った。
この一年。
フェニックスパワーだの、月のエネルギーだの──STXで過ごした時間は、どこか浮ついていた。
それでも、どこかで自分もその空気に乗せられていた。
そして今、はっきりとわかる。
──違う。
本当に必要なのは、そういうものじゃない。
ふと脳裏に浮かぶのは、現役時代、カンゾウで担任だったカデノコウジの顔だった。
華やかでも、派手でもなかった。
ただ、地に足をつけて、まっすぐに、こちらの顔を見てくれる人だった。
(……今度こそ)
フェニックスパワーにも、月のエネルギーにも頼らない。
地道に、一歩一歩、自分の力を積み上げる。
リョウスケは、静かにペンを走らせた。
そして、また、新しい一年が始まろうとしていた。
第8話へつづく