第7話:また、ここから

第6話からのつづき

冬が、終わった。

東大の合格発表。
掲示板の前に立ったリョウスケは、何度も自分の受験番号を探した。

けれど、どこにもなかった。

滑り止めで受けた私立大学には2つ合格していた。
だが、リョウスケの目に、それらの通知書は、ただの紙切れにしか見えなかった。

夕方、白井家。

リビングに家族が集まり、父・忠志が口を開く。

「おい、どうする? 一応、明治と法政は合格してるが、もうそこに決めてしまうか?」

リョウスケは、少しの間、視線を落とした。
そして、静かに、けれどはっきりと答えた。

「……俺、もう一年頑張りたい。カンゾウで頑張るよ」

父は少し驚いたように眉を上げ、すぐに穏やかに言った。

「そうか。お前が決めたことなら、仕方がない」

母、タカコも、テレビで見せるような作られた笑顔ではなく、素の顔でうなずいた。

「そうね、その意気よ。今度こそ、東大に入ってちょうだい」

4月から高3になる妹のカレンが、無邪気な声を上げた。

「お互い受験生同士、一緒に頑張ろう!」

リョウスケは、かすかに笑った。

(ああ、また、ここからだ)

心の奥で、そうつぶやいた。

机に向かい、リョウスケは静かにペンを握った。

この一年。
フェニックスパワーだの、月のエネルギーだの──STXで過ごした時間は、どこか浮ついていた。

それでも、どこかで自分もその空気に乗せられていた。
そして今、はっきりとわかる。

──違う。

本当に必要なのは、そういうものじゃない。

ふと脳裏に浮かぶのは、現役時代、カンゾウで担任だったカデノコウジの顔だった。

華やかでも、派手でもなかった。
ただ、地に足をつけて、まっすぐに、こちらの顔を見てくれる人だった。

(……今度こそ)

フェニックスパワーにも、月のエネルギーにも頼らない。
地道に、一歩一歩、自分の力を積み上げる。

リョウスケは、静かにペンを走らせた。
そして、また、新しい一年が始まろうとしていた。

第8話へつづく