第20話:スピリチュアル教師の孤独(前編)

Zoomの画面に現れたのは、いつもながらインパクトのある背景だった。

満月とクリスタルが合成された、神秘と不思議が渦巻く宇宙的イメージ。
中央に佇むのは、渋谷の東大合格予備校STXの名物教員、日暮里研二(にっぽりけんじ)。自称“波動の伝道師”である。

「お久しぶりです、先生。今日は、なんというか……魂が少し重たくて……」

深く息を吐くように語る彼の顔には、疲労とも不満ともとれる陰りが差していた。

「最近ですね、うちの予備校……STXの新規入塾者がちょっとずつ減ってきてるんですよ。それで、塾長、あ、うちでは“プレジデント”って呼ぶんですけど、そのプレジデントが、もうピリピリで。怒りの波動が空間にビリビリですよ。で、その矛先がなぜか、僕に……」

彼は訴えるように身を乗り出し、画面いっぱいに顔を近づけてきた。
その必死さとは裏腹に、声のトーンはやや裏返り、妙な焦りがにじんでいた。
まるで「自分は正しい」と言い張る子どものようでもある。

「毎日メルマガ書いてるの、僕ですよ? もう3年連続。365日欠かさず波動を込めて書いてきたのに。『今日は新月なので、受験計画を見直すチャンスです』とか、『ドラゴンパワーが高まるタイミングなので難問に挑戦を』とか。……なのに、ですよ? 生徒にも、プレジデントにも、他の講師にも『オカルト野郎』『スピリチュアル系残念講師』って、陰で言われてるんです。いや、陰でさえなくなってきた気がする……」

語りながら、彼は「今日はアメジストを胸元に置いてます」と言って、胸の前に紫色の石を掲げてみせる。
Zoom越しでも、それがやけにツヤツヤしているのはわかった。

「でもね、ワナミ先生、僕の教えをちゃんと守った生徒って、意外と受かってるんですよ。月のリズムに合わせて復習した子、東大模試で自己ベスト出しましたし。満月に願文書いて、枕の下に入れて寝た子、現役で旧帝大に受かったんです。ほんとです。でも誰も言ってくれないんですよ、『ニッポリ先生のおかげです』って。全部、自分の努力の成果だって……。」

言葉を吐き出すたびに、彼の声はしだいに小さく沈んでいった。

「僕、なんか、最近、予備校で働いてても、虚しくて……。なんのためにメルマガ書いてるんだろうって、ふと考えることがあるんです」

Zoom画面の向こうで、ニッポリはコーヒーを一口飲む。
そのマグカップには“月は満ち、我は導く”と書かれていた。

沈黙。

和波知良(わなみかずよし)は、いつものように静かに彼の言葉を最後まで聞いていた。
そして、まだ何も言っていない。

ニッポリが語り終えると、しばし沈黙が続いた。
そして、フクロウのアバターが静かに口を開いた。

「……逆に、それを突き詰めればいいんじゃないですか?」

ニッポリは反射的に身を揺らし、思わず声を上げた。

「へっ!? 突き詰めるって、何を……?」

ニッポリが素っ頓狂な声をあげる。

後編につづく