夜の歌舞伎町。
きらびやかなネオンの海に、いつものラガーシャツ姿の島田巧(しまだたくみ)が溶け込んでいた。
目指すはおなじみの店「Le Rêve」。
「ルナちゃ~ん!今日もお前の笑顔で一日が報われるんや!」
上機嫌に席につき、タクミは大盤振る舞いでシャンパンを注文。
ルナは営業スマイルを保ちながらも、どこか落ち着かない様子だった。
「……なんや、ルナちゃん、今日は元気ないやないか?」
「い、いえ……その……」
ヒメカの視線が入口の方に泳いだ、その瞬間──。
ガラッ!とドアが開く音。
大柄の男が店内に飛び込んできた。
「エリ!帰ってきてくれ!俺が悪かったんだ、もう出て行くなんて言わないでくれ!」
ルナの本名を叫ぶその男は、ヒメカの元カレだった。
店内に緊張が走る。
キャストも客も息を飲む中、タクミが口を開いた。
「……おいおい、兄ちゃん。ここは竜宮城やぞ? 現実の痴話喧嘩は、漁村でやってくれや。な?」
男の目がギラリと光る。
「お前だな?毎晩エリの帰りを尾けてるっていうストーカーは!」
タクミ、深く一度だけ息を吸い、静かに言った。
「ストーカーやない。スポンサーや」
店内、凍りつく空気。
ルナが泣きながら叫ぶ。
「やめて!お店で喧嘩なんかしないで!」
しかし元カレ、逆上。
「テメェ!ふざけんなッ!」
タクミの胸ぐらを掴もうとしたその時──。
ヒメカが氷がたっぷり入ったアイスペールからシャンパンのボトルを手に取った。
涙で化粧が崩れた顔に決意が宿る。
「これまでやられた10倍返しよ……ッッッ!!」
振り下ろされたシャンパンボトル。
ゴン!!!
クリティカルヒットしたのは、……タクミの後頭部だった。
「なんでやねん……」
崩れ落ちるタクミの声は、か細く虚空に消えた…。
翌朝。
タクミは歌舞伎町のコンビニのレジに並んでいた。
後頭部のタンコブがやたらと目立つ。
片手には、おでんを入れた発泡スチロールの容器。
タクミは一つ一つ具を確認し、ブツブツと呟く。
「癒されるわけないやろ……こんなもんで……」
そっと、ちくわぶだけをおでんウォーマーに戻した。
第7話へつづく