第3話:大学って、こんなもの?

大学に入れば、もう少し“面白いこと”があると思っていた。

入学式の帰り道、四ツ谷駅のホームで見上げた空は悪くなかった。
風もあったし、日差しもほどよかった。
でも、大学は風をくれなかった。
吹いたのは、湿った空気だけだった。

新歓期のキャンパスは、狂っていた。
ビラ配り、呼び込み、路上パフォーマンス。
まるで地方都市の駅前。

一番声がでかかったのが、テニスサークルだった。

「インカレで〜す!」
「飲み会たくさんあります!」
「初心者大歓迎!」

(ああ、私はこれ、知ってる。)

“初心者でも歓迎”の裏には、“初心者しか来ない”ってオチがある。
でも、顔は笑った。
「面白そうですね〜」と声を出した。

人間関係は“苦労してるフリ”が潤滑油だ。
テニス経験者です、というと、先輩が嬉々として話し始めた。

「へぇ〜ソフトテニス?じゃあラケットの握りは大丈夫だね!あ、来週飲み会あるんだけどさ!」

「趣味を通じて仲良くなる」なんて嘘だ。
目的は一つ。酔わせて、連絡先を聞いて、勘違いすること。

「彼女、俺に気があるかも」
──ない。

テニスサークルの初飲み会。
全員、どこかで見たことのある顔だった。

“地方の無敵だった男子高校生”。
ここでの「無敵」とは、地元のイオン周辺で幅をきかせていたタイプの男子という意味だ。

地元では強かった。
周囲が弱かっただけ。

自信だけは無駄にある。
根拠はない。

酒が入ると武勇伝が始まる。

隣にいたのは、元“地元のミスター文系”。
「将来さ、起業とか社会貢献とかしたくて……」
──しない。絶対にしない。
ノート一冊も使い切れないくせに、社会変えられるわけがない。

「俺、意識高くてウザいって言われるんだけど……」
──言われたくないなら黙ればいい。
それができない時点で、意識じゃなくて“見栄”だ。

気がつけば、ESSディスカッション系にも顔を出していた。
“アクティブな女子大生”という役を演じてみたくなっただけだった。

でも、そこにもいた。

「え、LGBTって言うの? Qが抜けてるよ。今はLGBTQね」
「日本って本当遅れてるよね。アメリカだとさ……」
「SDGsはさ、もはや常識っていうか」

──うるさい。

たくさん知ってる、たくさん経験してる。
それを能力と勘違いしてる時点で、君らは“詰んでる”。
知性ってのは、黙ってても滲み出るものだよ。
いちいち言わないと伝わらない時点で、もうダメなんだよ。

ジェンダー研究会の公開セッションは、帰国子女特有の流暢な英語で話してるくせに中身は中学生レベルだった。

社会起業サークルに顔を出したけれども、代表の顔が“俺の夢”でできていたので、二度と行かないことにした。

ミスコン運営から「ミスキャンパス狙えるよ」と言われたけれども、「じゃああなたが出てください」と言って断った。

「彼女いない歴=年齢って笑えるよな」と言っていた男子から「今日ヒマ?」とLINEが来た。
──秒でブロックした。

つまらない。
全部、つまらない。

誰も走ってないのに、「走りたい」とか「世界を変えたい」とか、口だけで笑わせてくる。
自分が“自分劇場”の主役だと思ってる連中ばかり。
観客のいない舞台で、よくもまあ飽きずに芝居を続けられるね。

あーあ。
大学に入ったら、もっと面白いと思ってた。
でもこれじゃあ、ただの“学歴ラウンジ”じゃん。

──だったら。
大学の中よりも、外に出た方が、何かあるかもしれない。

たとえば、バイト。
カフェでも行って、カウンター越しに世間を眺めるのも悪くない。

“大学”っていう鳥籠より、“社会”っていう猥雑な市場の方が、きっと面白いに決まってる。

第4話へつづく