カンゾウの見学を終えた帰り道、ダイキは駅までの道をゆっくり歩いていた。
都会の雑踏に紛れるように、さまざまな思いが頭を巡っていた。
(トップが「バカ殿」でも、現場が優秀なら成り立つ……そんな組織が本当にあるんだな)
奇妙な感慨だった。
だが、決して否定的ではない。むしろ感心している自分がいた。
教室の大学生チューターたちの多くは、東大、一橋、京大医学部。ダイキと同じ、あるいはそれ以上の学力を持つ若者たちだった。
しかもそのほとんどが、かつてこのカンゾウで学び、大学に進んだという。
つまり、彼らはこの場の空気、このシステム、この人間関係に育てられた「証明」でもあった。
そしてその中心にいたのが、実直で誠実な担任──カデノコウジだった。
彼は言った。
「本当は手伝ってもらえるなら、ありがたいです。1人で70人の生徒を見るのは、さすがに……」
だが、その直後に続いた言葉が、ダイキの胸に静かに突き刺さった。
「でも、現実には今、人を採用する余裕がありません。ごめんなさい」
──ごめんなさい。
その言葉に、ダイキは何も言えなかった。
カデノコウジの目はまっすぐで、誠実だった。
その裏にある苦労や責任、そして理不尽な経営状況も、なんとなく察せられた。
「うち、電話営業で食いつないでるんですよ。チューターも安く使って……家賃、人件費、全部現金回しです。銀行の審査? 通るわけないですよ」
そう笑いながら、彼はこうも言った。
「生徒のために教える現場と、金を動かす営業の世界は、まるで別物です。だけど、どっちが欠けても回らないのが現実なんです。うちはね、教えるのはインテリですが、営業する人間の多くがならず者なんですよ」
冗談交じりだったが、どこか寂しげな苦笑いだった。
ダイキはふと「新聞は、インテリが作りヤクザが売っている」と父親が昔言っていた言葉を思い出した。
帰宅後、ダイキは思わずパソコンを開き、もう一度カンゾウのWebサイトを眺めた。
デザインは古臭く、情報も更新が遅れているが、それでもこの雑然とした予備校には、確かに「何か」があった。
──泥臭い、でも温かい。
──古びている、でも生きている。
エゾエが言っていた「教育の現場には、理屈じゃ測れない熱がある」という言葉を、ようやく身体で理解できた気がした。
(……面白い塾だったな)
そう思いながら、静かにページを閉じた。
第12話へつつく