第4話:静かなる反撃

第5話からのつづき

──巣鴨・邁進塾。

その日、犬堂シンヤは静かに、生徒たちを集めてこう言った。

「みんな、最近……この周りで変なことが起きてるよね」

生徒たちは顔を見合わせ、こくりとうなずいた。

犬堂は、少し微笑んだ。

「心配しなくていい。僕たちは、ここで勉強するために集まってる。 誰が、何をしてこようと、やることは変わらない」

教室には、ひたむきな空気が広がった。


 
──だが。

犬堂自身、わかっていた。

(このまま、受け身じゃダメだ)

相手は、じわじわと内側を腐らせにきている。
ならば──こちらも、打って出るしかない。
 
犬堂は、こっそり動き始めた。

かつてカンゾウ時代に世話になった、 ある卒業生──いまや某有名進学校の講師をしている男に連絡を取った。

「久しぶり。実は、今、小さな塾をやっててさ。 ちょっとだけ、名前を貸してくれないか?」

「……いいよ。オレ、あんたには恩があるから」

即答だった。
 
数日後──。

巣鴨駅近くの掲示板に、こんな貼り紙が出現した。

【邁進塾 特別講義】
【○○進学校 現役講師による、数学特別セミナー!】

生徒・保護者に向けた無料セミナーの告知だった。

しかも、講師の名前は全国模試の解説記事にも載ったことのある、有名な若手教師。
 
口コミは、一気に広がった。

「え、あの先生、巣鴨に来るの?」

「無料!?マジで!?」

一部で悪評をばらまかれていた空気が、少しずつ変わり始めた。

──タクミ、激怒。

高田馬場・カンゾウ本部ビル。
塾長室で、またしても机を蹴飛ばす音が響く。

「ふざけやがって!!」

タクミは、怒鳴った。

「なんだあの貼り紙は!!」

「アイツ……姑息な手を使いやがって……ッ!!」
 
ゴンドウが、鼻で笑う。

「ちっ、意外と頭回るんすね、あの糸コン野郎」
 
タクミは、ワナワナと拳を震わせた。

「いいか、次は──本気で潰すぞ」

「……へい」

ゴンドウは、妙に低い声で答えた。
 
(ここからが本番だ)

タクミは、ギラギラと目を光らせた。
 
──そして。
犬堂シンヤの、小さな塾をめぐる攻防は、さらに苛烈さを増していく。
 
次なる嫌がらせは、生徒の家庭に直接──

不穏な「怪文書」が送りつけられるところから、始まるのだった。

第5話へつづく