第4話:りなリンゴ☆登場

──都心の高層ビル群の中
その37階にあるメディカルデラックス校舎。

その日。

島田タクミは、エレベーターホールで腕を組みながら待っていた。

(来る……)

(本命が──来る!!)

チーン。

エレベーターのドアが開いた。

現れたのは、小柄な女の子だった。

白いニットに、デニムのミニスカ。
ナチュラルメイクに、ふわっとしたロングヘア。

りなリンゴ☆本人。

動画で見るより、数段かわいかった。

(……ほぉ)

タクミは、一瞬、のどが鳴りそうになるのを堪えた。

(思ってたより……エエやないか)

うずく下心。

だが──

(あかんあかん!!)

タクミは、心の中で叫んだ。

(ここはガマンや……ガマンやタクミ……)

(これは──売上のための女や……!!)

自分に言い聞かせるように、歯を食いしばった。

タクミは、涼しい顔を作ってりなリンゴ☆に微笑んだ。

「よお来たな。待っとったで」

「は、はいっ……今日はよろしくお願いします!」

りなリンゴ☆は緊張しつつも、ぺこりと頭を下げた。

(けなげやな……オレが手ぇ出したら、あかん……)

(売上や……売上のためや……!!)

タクミは、こみ上げる本能を押し殺し、営業スマイルを浮かべた。

──準備完了。

校舎の中では、すでに撮影班(例のファッション専門学生たち)がセッティングを終えていた。

カメラ、三脚、ライト──
機材は安物だが、見栄えはバッチリ。

タクミは、小声で指示を出した。

「ええか、派手めに撮れ。キラキラや。ここが“夢の国”みたいや思わせろ」

「了解っす!」

──そして、撮影開始。

「こんにちはー!りなリンゴ☆です!」

りなリンゴ☆、満面の笑みでカメラに手を振る。

「今、東京の超すごい医学部専門予備校、メディカルデラックスに来てまーす!」

テロップ:★医学部専門予備校メディカルデラックス★

「見てください、このキレイな廊下!まるでホテルみたい!りなりん・ゴー!」

校舎内をパタパタ走るりなリンゴ☆。

その様子を、タクミは後ろで腕組みしながら見ていた。

(……よし、完璧や)

(これや。これがマーケティングや!!)

廊下、教室、自習室──

次々と場所を変え、りなリンゴ☆はキラキラした笑顔で紹介を続ける。

「ここが自習室です!りなリンゴ☆も、ここでお勉強したーい!りなりん・ゴー!」

(……可愛い)

(でも手ぇ出したら終わりや……)

(売上……売上……)

タクミは己を戒めながら、静かに見守った。

──そして、クライマックス。

りなリンゴ☆がカメラに向かって、元気に手を振る。

「みんなも、メディカルデラックスへ、りなリンと──」

「ゴー!!」

(──決まった!!)

タクミは、内心でガッツポーズをした。

──こうして。

医学部受験戦線に、キラキラの核弾頭が投下された。

何も知らない童貞受験生たちは、今、ゆっくりと──だが確実に、釣り上げられようとしていた。
 
第5話へ続く