第7話からのつづき
──メディカルデラックス・総長室。
「……オレは、総長や」
島田タクミは、肘掛け付きの革製の椅子にふんぞり返りながら、改めて呟いた。
目の前には──
金色の額縁に収まった『名誉総長 辞令書』。
その横には──
愛用の万年筆、そして、割り箸に挟まれた1万円札(プレミアムおでん)。
すべてが、タクミに「偉くなった」気分を強くしていた。
(オレは名誉総長や……)
(テッペンに登り詰めたんや……!)
脳内では、またしても『暴れん坊将軍』のテーマが流れ始めた。
──それからのタクミは、完全に「名誉総長モード」だった。
「オイ、お前! このチラシ、配り方がなっとらん!!」
営業部の若手に怒鳴りつける。
「生徒への指導は、心に火を点けるようにやらんかい!」
若手講師には説教を垂れる。
「何が“社会的意義”や! 予備校は勝ってなんぼや!!」
定例会議でも暴れ回る。
──とにかく、何にでも口を出し、手を出し、怒鳴りまくる。
しかも、その大半が的外れ。
だが──
『名誉総長』という立場を与えられてしまった以上、誰も、タクミを完全には止められなかった。
カトウ社長もエゾエ教務部長も──
(……まあ、いずれ落ち着くだろ)
(……今は、好きにやらせておこう)
と、静観していた。
──だが。
タクミの暴走は、徐々にエスカレートしていった。
ある日。
校舎のエントランスに──
巨大なポスターが貼り出された。
『総長直伝! 名誉総長特別講義 開催!!』
──テーマ:受験に勝つための「人生論」
講師:名誉総長・島田タクミ
エゾエ教務部長、青ざめる。
「……聞いてないぞ、こんな話」
しかも、ポスターの下には、こんな煽り文句が躍っていた。
『聞かなきゃ損するぞ!! 人生変わるぞ!! オレについてこい!!』
──さらに。
授業用のホワイトボードには、タクミ直筆の標語がデカデカと貼られていた。
「気合と根性! 根性と気合!!」
──どこの昭和のスポ根マンガだ。
職員たちは、頭を抱えた。
「どうするんすか、これ……」
「いくらなんでも、今どき……」
だが、タクミはふんぞり返っていた。
「これが、オレ流や」
「いまどきのガキどもには、こういう魂の叫びが必要なんや!」
目を輝かせるタクミ。
もはや誰も手がつけられない「暴走総長」と化していた。
──だが、その裏で。
カトウ社長とエゾエ教務部長は、静かに、冷静に、分析を続けていた。
(……そろそろ潮時だな)
(……いずれ、限界が来る)
何かが、確実に、近づいていた。
島田タクミ、自爆へのカウントダウンが──。
第9話へ続く