第9話:怒涛の人生ガチャ講義

第8話からのつづき

──メディカルデラックス 校舎。

「──今日の講義はこれや!!」

島田タクミが、どや顔で黒板に大きく書き殴った。

『目指せ、打倒・東大医学部! 勝つための「人生ガチャ」必勝法』

教室、シーン──

生徒たちは、唖然としていた。

(……人生ガチャ?)
(……医学部受験って、そんなノリ?)

──だが。
そんな空気をまったく読まず、タクミは吠え続ける。

「ええかお前ら! 人生はガチャや!」

「ええ親に生まれるか、環境に恵まれるか、それだけや!」

「けどな──ここにおるお前らは、すでに勝ち組や! 親ガチャ勝利組じゃ!」

「親が金持ち! 医学部に行かせてもらえる! ガチャSSR引いとるんや!」
 
無駄に元気な中年男の絶叫が、校舎に響き渡った。

生徒たち、ドン引き。
講師たちも、控え室でため息。

「……これ、やばくないっすか」

「もう、止められないっすよ」

エゾエ教務部長も、眉間にシワを寄せながら資料をめくっていた。

──そんなある日。
不穏な影が、メディカルデラックスに忍び寄った。

総長室に、一本の電話。

「はい、メディカルデラックスです」

秘書が受け取ったその電話の主は、聞き覚えのない週刊誌の記者だった。

「……あの、そちらの島田タクミさんについて、 いくつか確認したいことがありまして」

──確認?
──取材?

秘書は、背筋が冷たくなるのを感じた。

記者は続けた。
「元・関東学力増進機構(カンゾウ)でのご経歴について──」

──カンゾウ。
禁断のワードだった。

「あ、あの、広報担当にお繋ぎします」

秘書は、震える指で内線を押した。
エゾエ教務部長のデスクに、無情なコール音が響く。
 
──その頃。
タクミは、校舎のロビーで生徒たち相手に「総長講話」をぶちかましていた。
 
「ええかぁ! オレの背中を見ろぉ!」

「オレは、今ここに──伝説を作っとるんやぁ!!」

総長タクミ、絶好調。
 
だが、その背後で。
じわじわと、確実に破滅の足音は、忍び寄っていた。
 
第10話へ続く