第8話からのつづき
──メディカルデラックス 校舎。
「──今日の講義はこれや!!」
島田タクミが、どや顔で黒板に大きく書き殴った。
『目指せ、打倒・東大医学部! 勝つための「人生ガチャ」必勝法』
教室、シーン──
生徒たちは、唖然としていた。
(……人生ガチャ?)
(……医学部受験って、そんなノリ?)
──だが。
そんな空気をまったく読まず、タクミは吠え続ける。
「ええかお前ら! 人生はガチャや!」
「ええ親に生まれるか、環境に恵まれるか、それだけや!」
「けどな──ここにおるお前らは、すでに勝ち組や! 親ガチャ勝利組じゃ!」
「親が金持ち! 医学部に行かせてもらえる! ガチャSSR引いとるんや!」
無駄に元気な中年男の絶叫が、校舎に響き渡った。
生徒たち、ドン引き。
講師たちも、控え室でため息。
「……これ、やばくないっすか」
「もう、止められないっすよ」
エゾエ教務部長も、眉間にシワを寄せながら資料をめくっていた。
──そんなある日。
不穏な影が、メディカルデラックスに忍び寄った。
総長室に、一本の電話。
「はい、メディカルデラックスです」
秘書が受け取ったその電話の主は、聞き覚えのない週刊誌の記者だった。
「……あの、そちらの島田タクミさんについて、 いくつか確認したいことがありまして」
──確認?
──取材?
秘書は、背筋が冷たくなるのを感じた。
記者は続けた。
「元・関東学力増進機構(カンゾウ)でのご経歴について──」
──カンゾウ。
禁断のワードだった。
「あ、あの、広報担当にお繋ぎします」
秘書は、震える指で内線を押した。
エゾエ教務部長のデスクに、無情なコール音が響く。
──その頃。
タクミは、校舎のロビーで生徒たち相手に「総長講話」をぶちかましていた。
「ええかぁ! オレの背中を見ろぉ!」
「オレは、今ここに──伝説を作っとるんやぁ!!」
総長タクミ、絶好調。
だが、その背後で。
じわじわと、確実に破滅の足音は、忍び寄っていた。
第10話へ続く