──休日の午後。
パソコンを立ち上げると、画面に編集しかけの動画が立ち上がった。
りなリンゴ☆──小川莉奈(おがわりな)は、椅子に深く腰をかけながら、ふっとため息をついた。
(……なんか、受験生の頃を思い出すな)
ふと、そんな気分になった。
自分が通っていたのは、地元の小さな塾だった。
名前は「改進塾」。
派手さはなかった。
ピカピカの自習室も、目立つ広告も、今流行りのタブレット教材もなかった。
だけど、少しずつ成績を伸ばすことができた。
授業は、手作りのプリントと、黒板の板書。
質問すれば、先生は必ず足を止めて話を聞いてくれた。
(特に、数学の犬堂先生……)
無口で地味な先生だったけど、リナにとっては、すごく話しやすかった。
「焦らなくていいよ」
「ゆっくり、でも、ちゃんと理解していこう」
そう言ってくれた声が、今も耳に残っている。
(あの環境、ありがたかったな……)
リナはそっと笑った。
改進塾は、小さなビルの2階にあった。
教室は、ざっと見渡せば10人も入ればいっぱいになるくらい。
だけど、壁際には自習机がずらりと並び、いつでも自由に使えた。
静かな空間で、ただ問題集に向かって、ペンを走らせる音だけが響く。
誰に見られるでもない、誰に褒められるでもない。
でも──
(ああ、私、今ちゃんと頑張れてる)
そんな、自信を積み重ねることができた。
(大きな塾じゃなくても、私はあそこが好きだったな)
画面に映る動画のサムネイルを見つめながら、リナは小さくつぶやいた。
「自分に合った場所で、静かに集中できること──それだけだったんだよなぁ」
派手な予備校に憧れたこともあったけれど、結局、あの地味な塾で、自分らしく頑張れたからこそ、リナは、国立大学の医学部に現役合格できたのだ。
マウスをクリックし、動画編集ソフトを起動する。
リナは、いつものようにYouTubeにアップする動画の編集を始めた。
第2話へ続く