第2話からのつづき。
──渋谷・STX。
白井リョウスケは、STXの小講義室に座っていた。
壁には、金ピカで刻まれた言葉。
「Rise Again with Infinite Power」
(……まあ、予備校って、こんなもんか)
リョウスケは、静かに受け止めていた。
壇上に立つのは、ニッポリ研二。
小柄で、やたらと頭が大きい。
そして今日もニコニコと笑っている。
「皆さん、こんにちは〜!」
ニッポリは、胸に手を当てて深々とお辞儀した。
「今日、ここにいるのは偶然じゃありません!」
「君たちは選ばれしフェニックスの卵たちだ!」
一瞬、教室がざわめいた。
ニッポリは赤い封筒を一人ひとりに配り始めた。
封筒には、金文字でこう書かれていた。
『フェニックスパワー単語帳』
リョウスケは無言で受け取った。 封筒は妙にずっしりと重かった。
中を開くと──
「東大頻出」と言われる英単語・英熟語が、びっしり1234個も並んでいた。
しかも、無理やり鳥(フェニックス)型に折りたたまれている。
ニッポリは誇らしげに胸を張った。
「この1234──ワンツースリーフォーはね、段階的な進歩、着実な成長を意味するエンジェルナンバーなんだよ!」
「この単語リストを持っているだけで、君たちは一歩一歩、確実に東大へ近づける!」
「今年の東大の英語の長文問題に使われている単語もこここから出たんだよ!」
リョウスケは、心の中で突っ込んだ。
(……1234個も単語並べれば、そりゃどれかは試験に出るだろ)
だが、顔には出さない。
(まあ、こんなもんか)
ニッポリはさらに続けた。
「しかもね、このプリントには僕自身のフェニックスパワーを封じ込めてある!」
「カバンに入れておくだけで、運気が上がるからね!」
生徒たちは戸惑いながらも、封筒をカバンにしまった。
ニッポリの講義は、さらにヒートアップしていく。
「ちなみに──他の予備校? 〇〇予備校? あま〜い!!」
「△△学院? 無駄無駄!!意識改革できてない!!」
(……まあ、こんなもんか)
リョウスケはまた静かに心の中でつぶやいた。
壇上のニッポリは、まるでハンターハンターの念能力者にでもなったつもりで、満面の笑みを浮かべていた。
(……本気で信じてるんだな)
リョウスケは、ぼんやりとそんなことを思った。
──こうして。
白井リョウスケの、フェニックスパワー漬けの日々が幕を開けたのだった。
(……まあ、予備校ってこんなもんか、前のところもそんな感じだったからな)
リョウスケは、帰り道にビル街の空を見上げて、そう思った。
第4話へつづく