その男がカンゾウ・関東上陸部隊に来たのは、ある蒸し暑い梅雨の午後だった。 白いポロシャツ。 彼は営業室に現れた。 肌は不自然なくらい色白でツルンとしており、汗に濡れた周囲の社員たちとは明らかに質感を異にしていた。 そして […]
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第2話:崖っぷちパワー
──カンゾウの「関東上陸部隊」電話営業室。 壁に沿って並べられた、くたびれたデスク。 タバコの焦げ跡だらけの受話器。 張り詰めた空気の中に、ときどきカラカラと乾いた笑い声がこぼれる。 ここが、カンゾウの心臓──命の電話を […]
Continue reading第1話:命の電話
ここは、カンゾウ。 正式名称──関東学力増進機構。 中堅予備校の中でも、なぜか「中堅大手」と自称してはばからない存在である。 常時在籍する生徒数は200人以上。 多い時は300人に近づくこともある。 東大をはじめとする国 […]
Continue reading第12話(終):カンゾウの帝王
あれから十数年の月日が流れた。 高田馬場、川沿いの灰色の6階建て雑居ビル。 その最上階、カンゾウ(関東学力増進機構)の心臓部、島田タクミの「塾長室」。 応接セット。 分厚いカーテン。 そして、中央に鎮座する巨大な黒いデス […]
Continue reading第11話:進出!高田馬場
──それは、総本部のちゃぶ台会議から始まった。 アカザワは、タクミの前に分厚い書類の束を叩きつけた。 「シマダさん、ここです」 「……どこや、これ?」 「高田馬場。徒歩7分。築20年。雑居ビル。しかも今、5フロアまとめて […]
Continue reading第10話:風はバブルの彼方から
──1990年代、大久保。 バブル崩壊後の東京は、あらゆるものが色を失っていた。 新宿から徒歩圏内、線路沿いのこの街も例外ではない。 シャッターを下ろした店舗。 誰もいないオフィス。 空きビルに、薄汚れた「テナント募集中 […]
Continue reading第9話:カンゾウシステム爆誕
それは、まったくの偶然だった。 「先生、漢文、全然わかんないっす……」 ある日の自習室。 駒沢仏教科のバイトが座禅を組みかけている隣で、高校2年の男子がノートを広げ、眉間にしわを寄せていた。 タクミは、それを横目で見なが […]
Continue reading第8話:逆にスゴい塾
「先生、うちの子、最近毎日通ってるんです。なんか、自習室が楽しいって……不思議ですね」 新大久保の2LDK。 ちゃぶ台に置かれた電話の向こうで、保護者の声がふわっと響く。 島田タクミは、鼻の穴を広げながら呟いた。 「やっ […]
Continue reading第7話:シマダ節、完全再起動
第6話からのつづき ──その日、タクミは朝から機嫌が良かった。 印刷屋から、名刺が届いたのだ。 これまでの手書き名刺とは違う。 オフホワイトの光沢紙、角丸仕上げ、片面カラー印刷。 島田巧 関東学力増進機構 塾長 進学戦略 […]
Continue reading第6話:質問教室、再び
第5話からのつづき JR大久保駅・南口。 線路沿いを新宿方向に歩いて1分。 駅からは近いが、やけに空気が雑な通りだ。 韓国食材店、安居酒屋、怪しいリラクゼーションサロン。 その合間に「第一教科書」という地味な書店が、ひっ […]
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