「ねぇ、あの子、泣いてるよ」 新宿東宝ビルの横──トー横通りの隅っこで、膝を抱えてうずくまる女の子。 年齢はハルカより下か、同じくらいか。 髪の毛はボサボサで、コンビニ袋を抱えていた。 「どうしたの?」 声をかけると、少 […]
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第12話:ようこそ、トー横へ
その夜、新宿は風が強かった。 東宝ビルの巨大なゴジラヘッドが、街の明るさとは裏腹に、不気味に浮かび上がっていた。 「……ここが、トー横」 正確には、“新宿東宝ビルの横”。 略して“トー横”。 ビルと駐車場の隙間にある細い […]
Continue reading第11話:新宿・トー横
昼夜逆転。 スマホの中にばかり目を向けて、配信動画やSNSを眺める時間が増えた。 かつてのクラスメイトが大学の写真を投稿している。 カフェでのランチ、サークルの飲み会、新しい友達との笑顔。 スクロールするたびに、自分だけ […]
Continue reading第10話:滑り落ちた春
第9話からのつづき 春は、静かに過ぎていった。 合格発表の掲示板の前に、ハルカの名前はなかった。 スマホを何度更新しても、結果は変わらなかった。 滑り止めの私大すら受けていない。 ──落ちた。 「浪人か……」 呟いた声は […]
Continue reading第9話:ファミレスの夜
第8話からのつづき ──それは、なんでもない夜の、なんでもないファミレスだった。 ハルカは新宿駅西口の改札を出て、TOHOシネマズ方面とは反対側── いわゆる「ビジネス街寄り」の静かな通りを歩いた。 少し歩いた場所にある […]
Continue reading第8話:名刺と千円札
──午後10時。 カンゾウの自習室は、いつもより静かだった。 試験が終わったばかりということもあり、生徒の数はまばら。 時計の針の音が、やけに大きく聞こえた。 「……広瀬さん、そろそろ閉館ですよ」 受付のスタッフが、申し […]
Continue reading第7話:どこまで本気?
──塾長室のドアを、開けるか、開けないか。 その判断に、時間がかかるようになったのは、いつからだったろう。 「……あの子、また島田塾長と話してるよ」 「もしかして、お気に入りってやつ?」 そんな声が、カンゾウの中で少しず […]
Continue reading第6話:特別じゃない私
第5話からのつづき ──夏が始まる頃。 カンゾウの自習室は、朝から夜まで満席だった。 ハルカも例外ではなく、ほぼ毎日通い詰めていた。 「最近よく見るね、あの子」 「塾長のお気に入りらしいよ」 そんな噂が、少しずつ広がって […]
Continue reading第5話:浮かぶ影
「広瀬さんさぁ、最近ちょっと調子いいんじゃない?」 模試の結果を見せたとき、英語のチューターがそう言った。 たしかに、点数は上がっていた。偏差値も少しずつだけど右肩上がりだった。 「ええ、まあ……」 「なんかあった?やる […]
Continue reading第4話:オレは教育者だからな
──それは、最初は“質問のためのノック”だった。 「失礼します。現代文の記述で……」 そんな風にドアをノックして、塾長室を訪ねるのが、次第にハルカの習慣になっていった。 島田タクミは、毎日のように塾長室にいた。 ときには […]
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