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第7話:どこまで本気?

第6話からのつづき ──塾長室のドアを、開けるか、開けないか。 その判断に、時間がかかるようになったのは、いつからだったろう。 「……あの子、また島田先生と話してるよ」 「もしかして、お気に入りってやつ?」 そんな声が、 […]

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第6話:特別じゃない私

第5話からのつづき ──夏が始まる頃。 カンゾーの自習室は、朝から夜まで満席だった。 ハルカも例外ではなく、ほぼ毎日通い詰めていた。 「最近よく見るね、あの子」 「塾長のお気に入りらしいよ」 そんな噂が、少しずつ広がって […]

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第5話:浮かぶ影

第4話からのつづき 「広瀬さんさぁ、最近ちょっと調子いいんじゃない?」 模試の結果を見せたとき、英語のチューターがそう言った。 たしかに、点数は上がっていた。偏差値も少しずつだけど右肩上がりだった。 「ええ、まあ……」 […]

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第4話:塾長室の扉

第3話からのつづき ──それは、最初は“質問のためのノック”だった。 「失礼します。現代文の記述で……」 そんな風にドアをノックして、塾長室を訪ねるのが、次第にハルカの習慣になっていった。 島田タクミは、毎日のように塾長 […]

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第2話:塾長室の扉

第1話からのつづき 島田タクミ── 初めて出会ったとき、ハルカはその存在感に目を奪われた。 185センチの巨体に、響く大声。 ラガーシャツの襟を立て、胸元には金色のネックレスがちらついている。 とても大学進学塾の「長」と […]

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第7話:主役と脇役

第6話からのつづき 都内某所──川沿いの倉庫跡地に建てられた灰色の6階建てビル。 その最上階にある一室。 分厚いカーテン、応接セット、クリスタルの灰皿に山積みの吸い殻── 関東学力増進機構(カンゾウ)の「塾長室」だった。 […]

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第6話:突然の解雇

第5話からのつづき ゴンドウが勤務していた教材会社の名前は── 「桜教育サービス株式会社」 大学受験用の教材を制作・卸販売し、全国の中学・高校・予備校に配布している会社だった。 問題集、解説集、模擬試験セット── とにか […]

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第2話:地味な春の光

第1話からのつづき ゴンドウの大学生活の4年間── それは、特筆すべきことが何ひとつ起こらない時間だった。 所属していたのは「会計研究会」──通称“カイケン”。 会計といっても、やっていることは簿記の演習と、月に一度の飲 […]

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第1話:平塚ブルース

本名は、権藤龍太郎(ごんどう・りゅうたろう)。 初対面でフルネームを名乗ると、たいていこう言われる。 「なんか、政治家かフィクサーみたいな名前ですね」 それもそのはず、名字は画数の多い「権藤」、名前も「龍太郎」という仰々 […]

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第10話:総長、沈黙す。

第9話からのつづき ゴールデン街の小さなバーに、妙な静けさがあった。 常連たちが酒を傾ける中、ただひとり、重い空気をまとって焼酎を飲んでいる男がいた。 ──島田タクミ。 “名誉総長”と呼ばれた男である。 だが今、誰もそう […]

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第9話:週刊文潮、動く

四ツ谷・麹町付近にある週刊誌『週刊文潮』編集部。 記者のヤナギは、ここ最近伸びている“あるYouTubeチャンネル”に注目していた。 チャンネル名は『ハルカちゃんねる』── 登録者数はすでに5万人を超え、「トー横キッズ系 […]

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第8話:個人情報売買

メディカルデラックス、通称「メディデラ」の一室── “名誉総長”タクミのデスクには、分厚い紙束が無造作に置かれていた。 それは、講習申し込み用紙や進路調査票、生徒アンケート、さらには模試の結果票。 保護者の職業、世帯年収 […]

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第6話:名誉総長

それから半年。 タクミは教育業界から忽然と姿をくらましていた。 関東学力増進機構(カンゾウ)での傍若無人な日々も、高級天ぷらの香りも、女子大生マオの甘え声も──今はすべて、過去の残り香だった。 だが、タクミは死んではいな […]

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第5話:追放

その日も、関東学力増進機構(カンゾウ)の塾長室には、香ばしい天ぷらの匂いが充満していた。 スナック「うたかた」のテイクアウト。 もちろん、経費で落とした。 「おう、ヤマニシ。あれ、もう手配した?」 「はい、社長。コピー機 […]

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第4話:蜜月と離別

大久保の裏通りに、季節外れのおでんを出すスナックがある。 赤提灯ではない。 ネオン管の看板に「うたかた」と書かれた、どこか場末で、昭和風の洒落た店。 天ぷらが名物という変わり種だったが、真夏でも出汁の効いたおでんが美味い […]

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第3話:タクミ式マネジメント

「いいか。社員が“辞めたい”って言い出したら、“おめでとう”って言えばいいんだよ。」 タクミは社長椅子にふんぞり返りながら続ける。 「お前の人生、俺の船から降りるってんなら、せいぜい泳ぎ切ってみなってな」 関東学力増進機 […]

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第2話:肩書きと女に溺れる

島田タクミの「武器」は、電話営業だけではなかった。 もうひとつの武器──それは「肩書き」である。 タクミは自らをこう名乗っていた。 「東京大学卒。文科三類で心理学を専攻していたを専攻していた」 実際は、四国の大学中退であ […]

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第1話:栄光は誰のために

本名は島田巧(しまだたくみ)という。 だが、塾の関係者や教え子、保護者たちは誰もそうは呼ばなかった。 彼を知る者は、畏れと困惑、そしてある者は尊敬の念を込めてこう呼ぶ。 「塾長」と。 東京・山手線沿線の某所。 川沿いに建 […]

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