──春。 その日、塾長室のドアがノックされた。 「失礼します。体験授業を申し込みました、佐野原です」 カンゾウの塾長・島田タクミは、チラッと顔を上げた。 長い髪をひとつに結び、真っすぐな瞳をこちらに向ける少女。アイドルの […]
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第5話:小野寺レンの再起
カンゾウの浪人コースの初日、島田タクミが教室を見回して言う。 「お前ら、全員“落ちこぼれ”だ。だが、見方を変えれば、“落とされた”んじゃない。自分で勝手に落ちただけだ」 このセリフにムカッときた小野寺蓮(おのでられん)。 […]
Continue reading第4話:堀口ミサキの進学
──高円寺。ネオンが瞬く夜の街。 キャバクラ『不夜城』。 島田タクミは、安いウイスキーをちびちび舐めながら、いつもの席に座っていた。 「あら、また来てくれたんですか? 指名料、もったいないですよ?」 ニコリと笑ったのは、 […]
Continue reading第3話:村井リクトの法進
──その日、島田タクミは不機嫌だった。 夕飯用に買ったスーパーの「おでんパック」。 「お得セット!」と書いてあったくせに、中身を開けてみたら── こんにゃく、白滝、そして、やたらでかいちくわぶ。 タクミは、しけた顔でため […]
Continue reading第2話:鈴木マナの現実
──数日前、中野の安キャバにて。 「将来は絵の道に進みたいんです」 島田タクミの好みド真ん中、陰のある美大生キャバ嬢が、そう言った。 島田は、その夜、めずらしくマジメに口説いた。 だが── 「おじさん、無理。生理的に無理 […]
Continue reading第1話:田所ユウトの覚醒
──田所優斗(たどころゆうと)。 その名を聞いて、何かを思い浮かべる人間は、当時のカンゾウ(関東学力増進機構)にはひとりもいなかった。 成績は中の下。 授業には出ているが、質問はしない。 真面目でも、不真面目でもない。 […]
Continue reading第20話(終):塾長・広瀬春香
夜の空気に、冬の匂いが混じる。 コートの襟を立てながら、駅前の雑踏を歩く彼女の姿は、どこか堂々としていた。 ──広瀬春香、33歳。 いまでは、年商3億の教育系企業『spring』の代表取締役であり、人気予備校の塾長である […]
Continue reading第19話:証言の日
約束の場所は、新宿御苑近くの喫茶店だった。 駅から5分ほど歩いた場所にある、どこか場末感のある昭和風の店。 カウンターの奥からは、八神純子や杉山清貴の、どこか懐かしい80年代のヒット歌謡が流れていた。 ──「恋は焦らず」 […]
Continue reading第18話:週刊文潮からの取材依頼
第17話からのつづき 四ツ谷・麹町付近にある週刊誌『週刊文潮』編集部。 記者のヤナギは、朝のルーティンとして、話題のYouTube動画をまとめたRSSをチェックしていた。 「お、また伸びてんな、“ハルカちゃんねる”……」 […]
Continue reading第17話:動画、アップロード
部屋に残された、たった一枚の名刺。 それが、すべての“引き金”だった。 ──あの人は、私を忘れていた。 それが、悔しいとか、悲しいとか、そういう感情とは少し違っていた。 けれど、“忘れられる側”の痛みは、確かに残った。 […]
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