オンライン会議の通知音が鳴り、画面が切り替わる。 そこに現れたのは開業医・上杉隆光(うえすぎたかみつ)の姿だった。 背景は「上杉医院」改め「上杉クリニック」の応接室。 以前は昭和の名残を引きずった古びた壁紙と安っぽいソフ […]
Continue readingカテゴリー: Wの視点
第16話:名前を変えて収益倍増
ノイズの走る画面に、初老の男の姿が少し遅れて浮かび上がった。 いつもの白衣。 その男は、上杉高充(うえすぎたかみつ)。 背景はいつもの病院の応接室のようだ。年代物のソファと黄ばんだ壁紙が見える。まるで長年使われた写真を無 […]
Continue reading第15話:お土産に苦悩する
Zoomの接続が完了する。 画面に映ったのは、白衣姿の医師、上杉高充(うえすぎたかみつ)。 背景は病院の院長室のようだ。 白衣の胸ポケットには、ペンがいくつも差してあった。 「いやぁ、先生。この前もありがとうございました […]
Continue reading第14話:親バカの居場所
Zoomの接続が完了する。 画面に映ったのは、開業医・上杉高充(うえすぎたかみつ)の白衣姿の男だった。 背景は病院の応接室のようだが、画像が古く、やけにぼやけて見える。 「いやぁ、先生。この前はありがとうございました。急 […]
Continue reading第13話:燃え尽きたホームラン(後編)
Wはしばらく沈黙した後、静かに口を開いた。 「シノダさん、以前、宇宙飛行士の野口聡一さんの話を聞いたことがありますか?」 「え? 宇宙飛行士……ですか?」 「はい。彼が地球に帰還したとき、長い間、疎外感に苦しんだそうです […]
Continue reading第12話:燃え尽きたホームラン(前編)
Zoom画面に映った男は、がっしりとした体つきに浅黒い肌。 髪は短く整えられているが、その目元にはどこか影があった。 彼はしばらく何も話さず、Wのフクロウアバターがゆっくりと揺れる姿を眺めていた。 「篠田敬吾(しのだけい […]
Continue reading第11話:耳は金なり
Zoomの接続が完了する。 画面に映ったのは、白衣姿の男性だ。 「いやぁ、先生。今日もありがとうございます、急にお時間いただいちゃって──」 和波知良(わなみかずよし)のアバター、フクロウのWは、静かに、左右にゆらゆらと […]
Continue reading第10話:最近の若者は…(後編)
Zoomの画面に映るフクロウは、ゆっくりと身体を左右にゆらしながら、一回瞬きをした。 「共感と理解は、まったく別物です」 声は、柔らかく、しかし芯がある。 「共感とは、相手の価値観や感情に“自分もそう思う”と寄り添うこと […]
Continue reading第9話:最近の若者は…(前編)
「最近の若い奴は、って言いたくはないんですけどね」 その言葉で、オンラインの相談が始まった。 画面に映っているのは、スーツ姿の男性。 名は古田和久(ふるたかずひさ)。 年の頃は40代半ばで、大手家電メーカーの中間管理職だ […]
Continue reading第8話:書けなくなった小説家(後編)
前編からのつづき 「あなたは、“好き勝手にやってもいい立場”にいると、自覚していますか?」 フクロウの声は変わらず穏やかだった。 その口調は、責めるでも急かすでもなく、淡々と問いを投げかけているだけに思えた。 ミズハラは […]
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