カテゴリー: 広瀬ハルカの沈黙

第10話:滑り落ちた春

第9話からのつづき 春は、静かに過ぎていった。 合格発表の掲示板の前に、ハルカの名前はなかった。 スマホを何度更新しても、結果は変わらなかった。 滑り止めの私大すら受けていない。 ──落ちた。 「浪人か……」 呟いた声は […]

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第9話:ファミレスの夜

第8話からのつづき ──それは、なんでもない夜の、なんでもないファミレスだった。 ハルカは新宿駅西口の改札を出て、TOHOシネマズ方面とは反対側── いわゆる「ビジネス街寄り」の静かな通りを歩いた。 少し歩いた場所にある […]

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第8話:名刺と千円札

──午後10時。 カンゾウの自習室は、いつもより静かだった。 試験が終わったばかりということもあり、生徒の数はまばら。 時計の針の音が、やけに大きく聞こえた。 「……広瀬さん、そろそろ閉館ですよ」 受付のスタッフが、申し […]

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第7話:どこまで本気?

──塾長室のドアを、開けるか、開けないか。 その判断に、時間がかかるようになったのは、いつからだったろう。 「……あの子、また島田塾長と話してるよ」 「もしかして、お気に入りってやつ?」 そんな声が、カンゾウの中で少しず […]

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第6話:特別じゃない私

第5話からのつづき ──夏が始まる頃。 カンゾウの自習室は、朝から夜まで満席だった。 ハルカも例外ではなく、ほぼ毎日通い詰めていた。 「最近よく見るね、あの子」 「塾長のお気に入りらしいよ」 そんな噂が、少しずつ広がって […]

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第5話:浮かぶ影

「広瀬さんさぁ、最近ちょっと調子いいんじゃない?」 模試の結果を見せたとき、英語のチューターがそう言った。 たしかに、点数は上がっていた。偏差値も少しずつだけど右肩上がりだった。 「ええ、まあ……」 「なんかあった?やる […]

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第2話:塾長室の扉

第1話からのつづき 島田タクミ── 初めて出会ったとき、ハルカはその存在感に目を奪われた。 185センチの巨体に、響く大声。 ラガーシャツの襟を立て、胸元には金色のネックレスがちらついている。 とても大学進学塾の「長」と […]

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第1話:ここでやってみる

──広瀬春香(ひろせ・はるか)。 その名前が、誰かの記憶に残ったことは、たぶん一度もない。 最初に名前を呼ばれた記憶は、小学校の担任からだった。 「ヒロセさんは、いつも返事が小さいわね」 クラスがざわつく中で、その一言だ […]

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