第6話:特別じゃない私

第5話からのつづき ──夏が始まる頃。 カンゾウの自習室は、朝から夜まで満席だった。 ハルカも例外ではなく、ほぼ毎日通い詰めていた。 「最近よく見るね、あの子」 「塾長のお気に入りらしいよ」 そんな噂が、少しずつ広がって […]

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第5話:浮かぶ影

「広瀬さんさぁ、最近ちょっと調子いいんじゃない?」 模試の結果を見せたとき、英語のチューターがそう言った。 たしかに、点数は上がっていた。偏差値も少しずつだけど右肩上がりだった。 「ええ、まあ……」 「なんかあった?やる […]

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第2話:塾長室の扉

第1話からのつづき 島田タクミ── 初めて出会ったとき、ハルカはその存在感に目を奪われた。 185センチの巨体に、響く大声。 ラガーシャツの襟を立て、胸元には金色のネックレスがちらついている。 とても大学進学塾の「長」と […]

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第1話:ここでやってみる

──広瀬春香(ひろせ・はるか)。 その名前が、誰かの記憶に残ったことは、たぶん一度もない。 最初に名前を呼ばれた記憶は、小学校の担任からだった。 「ヒロセさんは、いつも返事が小さいわね」 クラスがざわつく中で、その一言だ […]

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第7話:主役と脇役

都内某所──川沿いの倉庫跡地に建てられた灰色の6階建てビル。 その最上階にある一室。 分厚いカーテン、応接セット、クリスタルの灰皿に山積みの吸い殻。 関東学力増進機構(カンゾウ)の「塾長室」だった。 そして、そこにふんぞ […]

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