──春、STX・鳳凰の間。 金ピカのフェニックス像が、今日もギラギラと光っている。 サギヤタカシ塾長は、ソファにふんぞり返り、満足げに笑った。 「おい、コックリ!」 「はい、ニッポリです!」 小柄で笑顔の絶えない男、ニッ […]
Continue reading第12話:すれ違い
──秋の気配が、じわじわとカンゾウを包みはじめた。 夏期講習が終わり、河口湖合宿からも戻ったリョウスケは、その頃から、少しずつ様子が変わり始めていた。 疲労が顔ににじみ、どこか集中力が切れているようだった。 秋の模試でも […]
Continue reading第11話:秘策
──高田馬場・カンゾウ、塾長室。 梅雨の気配が忍び寄るある日の午後。 塾長・島田タクミは、いつものように机に足を投げ出し、紙巻きタバコをふかしていた。 「おう、スタッフ一同!」 部屋に集められたスタッフたちに、タクミは上 […]
Continue reading第10話:逃した魚
──渋谷・STX、鳳凰の間。 金ピカのフェニックス像が鎮座する、特別室「フェニックス・ルーム」。 そのテーブルに、サギヤタカシ塾長が座っていた。 金髪オールバックを指でいじりながら、スーツの裾を何度もパシパシと払い、やた […]
Continue reading第9話:素直な心
春。 カンゾウの指導室には、まだ微かに冷たい空気が漂っていた。 リョウスケは机に向かい、まっすぐに座っていた。 かつての彼なら、どこか上の空で、心ここにあらずという雰囲気をまとっていたかもしれない。 だが今は違った。 ─ […]
Continue reading第8話:金づるリターン
──高田馬場・カンゾウ。 春、まだ冷たい風の吹くある日。 カンゾウ塾長室に、一報が届いた。 「白井リョウスケ、再申し込み!」 島田タクミは、その言葉を聞くなり、顔をほころばせた。 「おお、金づるリターンじゃ!」 タクミは […]
Continue reading第7話:また、ここから
冬が、終わった。 東大の合格発表。 掲示板の前に立ったリョウスケは、何度も自分の受験番号を探した。 けれど、どこにもなかった。 滑り止めで受けた私立大学には2つ合格していた。 だが、リョウスケの目に、それらの通知書は、た […]
Continue reading第6話:それぞれの夏
渋谷・STX。 白井リョウスケは、日々、授業と自習に追われていた。 STXには、スピリチュアルな講師・ニッポリ研二のような少し変わった存在もいたが、大半の講師は至極真っ当だった。 教え方も丁寧で、質問にも親身に応じてくれ […]
Continue reading第5話:ふたつの塾長室
──渋谷・STX。 白井リョウスケが食事を終え、勉強机に向かっていたころ。 渋谷駅近くにある予備校、STXでは、一つの小さな塾長室で、ヒソヒソと声が交わされていた。 「おい、マッコリ!」 「はい!ニッポリです!」 小柄で […]
Continue reading第4話:ギターの余韻
白井家のダイニング。 大理石調のテーブルに並ぶのは、オイシックスの高級ミールキットで作られたディナー。 鱒のムニエル、キヌアとクレソンのサラダ、ひよこ豆のポタージュ。 完璧に”正しい”食事。 母親 […]
Continue reading