渋谷── 駅前のビル群を抜け、裏通りの雑居ビルにひっそりと構える予備校、STX(渋谷東大エクスプレス)。 壁に金色の文字で刻まれたスローガンはこうだ。 「Rise Again with Infinite Power」 ( […]
Continue reading第2話:逃げちゃダメだ!
──渋谷STX、自習室の一角。 その日、ニッポリ研二は珍しく「講師っぽい顔」をしていた。 正面に座る男子生徒は、何かを言い出しかけて、また飲み込むような顔をしていた。 「……あの、先生」 「うん?」 「僕……志望校、変え […]
Continue reading第1話:波動と鼻水
渋谷の雑居ビルにある東大受験専門予備校「渋谷東大エクスプレス」。 通称STX。 ここの自習室の片隅の机で、担任の英語講師・日暮里研二(ニッポリケンジ)は、うつむいた生徒と向かい合っていた。 「……やってるんですけど、成績 […]
Continue reading第20話(終):それぞれの音
──数ヶ月後。あるいは、数年後。 白井リョウスケ率いるバンド《poetic justice》は、いまや世界的な注目を集める存在になっていた。 そのサウンドは破壊的で、どこまでも暴力的で、そして、驚くほどやさしかった。 だ […]
Continue reading第19話:覚醒と爆発
──新宿区大久保の西早稲田キャンパス。 昼下がりの空気はどこか気怠く、学生たちの笑い声と、かすかに聴こえるギターの音が混ざっていた。 白井リョウスケは、キャンパスの片隅にあるベンチで、安いアコースティックギターをつまびい […]
Continue reading第18話:ズルッと、ガクッと
──高田馬場・カンゾウ、塾長室。 黄ばんだ壁紙、煙草の焦げ跡、卓上の「お〜いお茶」。 昭和の匂いが漂うその部屋に、いつもの怒声が響き渡った。 「おい、カマドウマコウジ!!」 「カデノコウジですっ!」 島田タクミは、椅子に […]
Continue reading第17話:届かなかった場所
──二月。 その日は、朝からよく晴れていた。 空気は冷たく澄んでいて、街の喧騒もなぜか、遠く感じられた。 STX・自習室。 白井リョウスケは、最後の確認を終えたところだった。 英単語帳。 数IIIの標準問題集。 理科の過 […]
Continue reading第16話:フェニックス商法
ある日、テレビ局の収録後。 白井タカコが楽屋でメイクを落としていると、ドアがノックされた。 「失礼します〜、お疲れ様です!いつも番組拝見してます〜!」 やたら声が高いその男は、金髪オールバック、タモリのようなサングラスを […]
Continue reading第15話:従順なる諦観
──渋谷・STX。 春。 新年度。 だが、白井リョウスケにとって、それは何の意味も持たなかった。 彼は、再びこのビルに足を踏み入れた。 カンゾウでの敗北。 カデノコウジ先生との、歯切れの悪い別れ。 (……もう、どうで […]
Continue reading第14話:白髪の予兆
──高田馬場・カンゾウ、塾長室。 重たい空気が漂っていた。 島田タクミは、いつものラグビージャージ姿で椅子にふんぞり返っていた。 クリスタルの灰皿の上で紙巻きタバコを消した後、机の上のチラシをぐしゃぐしゃに丸めていた。 […]
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