──ある平日の午後。 巣鴨・邁進塾の周辺に、奇妙な空気が漂い始めていた。 コンビニ前にたむろする、やたら目つきの悪いスーツ男たち。 ビルの入口付近では、昼間からワンカップの日本酒やウイスキーをラッパ飲みするオヤジたち […]
Continue reading第2話:怒りの総動員
JR巣鴨駅から徒歩7分、古びた雑居ビルの3階。 そこにイヌドウが立ち上げた塾── 【邁進塾】 がひっそりとオープンしていた。 生徒はわずか十数人。 チューターは元カンゾウ組の大学生たち。 授業は、丁寧に進んでいた。 イヌ […]
Continue reading第1話:退職、引き抜かれた!
──JR高田馬場駅から徒歩5分。 『関東学力増進機構(通称・カンゾウ)』本部ビルの総務部に、一本の退職届が提出された。 提出者の名は、犬堂慎也(いぬどうしんや)、34歳。 京大卒、塾講師歴10年以上。 週3回、数学を教え […]
Continue reading第3話(終):無理をしない贅沢
──四月、ある平日。 沢田ユウコは、北千住駅のホームに立っていた。 特急「リバティけごん」の発車ベルが鳴る。 行き先は、日光。 (たまには一泊くらい、いいか) 座席に腰を下ろし、窓の外をぼんやりと眺める。 平日昼間の特急 […]
Continue reading第2話:大げさな羊たち
──JR池袋駅からバスで7分。 北池袋にある伊東予備校・池袋校の事務室。 午後2時。 外は春の強い風が吹き荒れ、校舎の窓ガラスがカタカタと鳴っていた。 コピー機の前で、学生アルバイトの女子がぴったりメイク直しをしている。 […]
Continue reading第1話:無理してる人々
──JR池袋駅からバスで7分。 北池袋にある伊東予備校・池袋校の事務室。 「……また島田先生、やらかしたらしいよ」 休憩中、同僚の女性スタッフが囁く。 沢田祐子(さわだゆうこ)は、パソコンの画面から目を離さないまま、相槌 […]
Continue reading第10話(終):坂井ダイスケの出世
──その少年の名は、坂井大介(さかいだいすけ)。 下町の底辺高校に通う高校3年生。 成績は、下から数えた方が早い。 進路希望は「大学ならどこでも」と書き、担任から苦笑された。 しかも、ダイスケの家は貧しかった。 父はトラ […]
Continue reading第9話 :石川ユリナの転身
──初夏の午後。 陽光がまぶしく、青々とした木々の影がアスファルトに揺れている。 島田タクミはカンゾウに向かう道を歩いていた。 煙草のフィルターを唇に挟み、片手で100円ライターを弄びながら。 保育園の前を通りかかる。 […]
Continue reading第8話:森村ヒナタの理転
──春先のことだった。 一人の女子生徒がカンゾウの塾長室のドアをノックした。 「こんにちは。進路相談をしに来ました」 島田タクミは、椅子にもたれたままチラリと顔を上げる。 森村陽咲(もりむらひなた)。 高校の制服に、黒髪 […]
Continue reading第7話:左海シュンスケの改心
──秋。 塾長室に、菓子折りが届いた。中には、銀座・虎屋の特製羊羹。箱の隅には小さな名刺。 《左海歯科医院 院長 左海達夫》 「ほう…ついに来たか」 島田タクミは、椅子にふんぞり返りながら、タバコに火をつけた。 左海俊輔 […]
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