避暑地・山中湖。 その湖畔に立つ、ログハウス風の豪華な別荘──それが、STXプレジデント・サギヤの所有する“フェニックス・リトリート”である。 空気は澄み、夜には湖に月が落ちる。 軽井沢ではありがちだが、ここでは月が、湖 […]
Continue reading第5話:何者かになりたくて
渋谷駅から徒歩7分。 「渋谷東大エクスプレス」、通称STX。 その個別指導ブースの一角で、額に汗をにじませながら、ノートPCを叩き続ける男がいた。 ニッポリ研二。 STXの生徒指導担任、そしてスピリチュアル系残念講師であ […]
Continue reading第4話:ガンジスにほえろ!
「最近、全部どうでもよくなってきて……」 渋谷・STXの個別指導ブース。 浪人2年目、東大志望の男子が、ポツリと呟いた。 「旅に出たいんです。インドとか。……ガンジス川の夕焼け、綺麗だろうなぁ……」 「インド……?ガ […]
Continue reading第3話:男は顔じゃない
渋谷── 駅前のビル群を抜け、裏通りの雑居ビルにひっそりと構える予備校、STX(渋谷東大エクスプレス)。 壁に金色の文字で刻まれたスローガンはこうだ。 「Rise Again with Infinite Power」 ( […]
Continue reading第2話:逃げちゃダメだ!
──渋谷STX、自習室の一角。 その日、ニッポリ研二は珍しく「講師っぽい顔」をしていた。 正面に座る男子生徒は、何かを言い出しかけて、また飲み込むような顔をしていた。 「……あの、先生」 「うん?」 「僕……志望校、変え […]
Continue reading第1話:波動と鼻水
渋谷の雑居ビルにある東大受験専門予備校「渋谷東大エクスプレス」。 通称STX。 ここの自習室の片隅の机で、担任の英語講師・日暮里研二(ニッポリケンジ)は、うつむいた生徒と向かい合っていた。 「……やってるんですけど、成績 […]
Continue reading第20話(終):それぞれの音
──数ヶ月後。あるいは、数年後。 白井リョウスケ率いるバンド《poetic justice》は、いまや世界的な注目を集める存在になっていた。 そのサウンドは破壊的で、どこまでも暴力的で、そして、驚くほどやさしかった。 だ […]
Continue reading第19話:覚醒と爆発
──新宿区大久保の西早稲田キャンパス。 昼下がりの空気はどこか気怠く、学生たちの笑い声と、かすかに聴こえるギターの音が混ざっていた。 白井リョウスケは、キャンパスの片隅にあるベンチで、安いアコースティックギターをつまびい […]
Continue reading第18話:ズルッと、ガクッと
──高田馬場・カンゾウ、塾長室。 黄ばんだ壁紙、煙草の焦げ跡、卓上の「お〜いお茶」。 昭和の匂いが漂うその部屋に、いつもの怒声が響き渡った。 「おい、カマドウマコウジ!!」 「カデノコウジですっ!」 島田タクミは、椅子に […]
Continue reading第17話:届かなかった場所
──二月。 その日は、朝からよく晴れていた。 空気は冷たく澄んでいて、街の喧騒もなぜか、遠く感じられた。 STX・自習室。 白井リョウスケは、最後の確認を終えたところだった。 英単語帳。 数IIIの標準問題集。 理科の過 […]
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