──新宿は大久保の西早稲田キャンパス。 昼下がりの空気はどこか気怠く、学生たちの笑い声と、かすかに聴こえるギターの音が混ざっていた。 白井リョウスケは、キャンパスの片隅にあるベンチで、安いアコースティックギターをつまびい […]
Continue reading第18話:ズルッと、ガクッと
──高田馬場・カンゾウ、塾長室。 黄ばんだ壁紙、煙草の焦げ跡、卓上の「お〜いお茶」。 昭和の匂いが漂うその部屋に、いつもの怒声が響き渡った。 「おい、カマドウマコウジ!!」 「カデノコウジですっ!」 島田タクミは、椅子に […]
Continue reading第17話:届かなかった場所
──二月。 その日は、朝からよく晴れていた。 空気は冷たく澄んでいて、街の喧騒もなぜか、遠く感じられた。 STX・自習室。 白井リョウスケは、最後の確認を終えたところだった。 英単語帳。 数IIIの標準問題集。 理科の過 […]
Continue reading第16話:フェニックス商法
第17話からのつづき ある日、テレビ局の収録後。 白井貴子が楽屋でメイクを落としていると、ドアがノックされた。 「失礼します〜、お疲れ様です!いつも番組拝見してます〜!」 やたら声が高いその男は、金髪オールバック、タモリ […]
Continue reading第15話:従順なる諦観
──渋谷・STX。 春。 新年度。 だが、白井リョウスケにとって、それは何の意味も持たなかった。 彼は、再びこのビルに足を踏み入れた。 カンゾウでの敗北。 カデノコウジ先生との、歯切れの悪い別れ。 (……もう、どうで […]
Continue reading第14話:白髪の予兆
──高田馬場・カンゾウ、塾長室。 重たい空気が漂っていた。 島田タクミは、いつものラグビージャージ姿で椅子にふんぞり返っていた。 クリスタルの灰皿の上で紙巻きタバコを消した後、机の上のチラシをぐしゃぐしゃに丸めていた。 […]
Continue reading第13話:戻る場所
第12話からのつづき ──春、STX・鳳凰の間。 金ピカのフェニックス像が、今日もギラギラと光っている。 サギヤタカシ塾長は、ソファにふんぞり返り、満足げに笑った。 「おい、コックリ!」 「はい、ニッポリです!」 小柄で […]
Continue reading第12話:すれ違い
第11話からのつづき ──秋の気配が、じわじわとカンゾウを包みはじめた。 夏期講習が終わり、河口湖合宿からも戻ったリョウスケは、その頃から、少しずつ様子が変わり始めていた。 疲労が顔ににじみ、どこか集中力が切れているよう […]
Continue reading第11話:秘策
第10話からのつづき ──高田馬場・カンゾウ、塾長室。 梅雨の気配が忍び寄るある日の午後。 塾長・島田タクミは、いつものように机に足を投げ出し、紙巻きタバコをふかしていた。 「おう、スタッフ一同!」 部屋に集められたスタ […]
Continue reading第10話:逃した魚
第9話からのつづき ──渋谷・STX、鳳凰の間。 金ピカのフェニックス像が鎮座する、特別室「フェニックス・ルーム」。 そのテーブルに、サギヤタカシ塾長が座っていた。 金髪オールバックを指でいじりながら、スーツの裾を何度も […]
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