前編からのつづき 「深さの話を、しましょうか」 そう言ったとき、画面の中のフクロウの目には、やはり何の変化もなかった。 でもその声には、ごくわずかに──ほんのわずかに──暖かさがにじんでいた気がする。 リナは黙って頷いた […]
Continue reading第1話:数字に揺れる私(前編)
Zoomの接続が完了するまでの三秒が、やけに長く感じた。 小川莉奈(おがわりな)は、軽く息を吐いて画面を見た。 出てきたのは、フクロウのアバター。 名前の欄には“W.Navi”とだけ表示されている。 声はまだ聞こえない。 […]
Continue reading第11話(最終話):忘年の宴
年末。 午後3時から4時の休憩時間が終わったのカンゾウ営業部には、そわそわとした空気が満ちはじめていた。 「おいおい、今日、何時上がりやねん」 「さっさと閉めようぜ、忘年会や!」 「成約? 知るか!」 ──誰も、受話器な […]
Continue reading第10話:スピリチュアル女
カンゾウ営業部隊に、一人の「異国の姫」が舞い降りた。 その名も──小夜月姫香(さよづきひめか)。 履歴書には、堂々とそう記されていた。 本名か? 源氏名か? 誰も知らないし、誰も聞かない。 ここで重要なのは、オーダーを取 […]
Continue reading第9話:エア・オーダー爺
ここに、ひとりの男がいる。 年齢、実は70オーバー。 だが、白髪は染め上げられ、声にはやたらとハリがある。 白ワイシャツにネクタイ、その上にウインドブレーカーをいつも着ている。 電気屋か工務店の社長のようでもある。 […]
Continue reading第8話:地味な継続マン
何もなかった。 だが、すべてがそこにあった。 彼の名は、田山井光一(たやまいこういち)。 黒縁メガネに、地味なスーツ。 誰が見ても、街を歩けば5秒で忘れる顔。 声も小さく、滑舌も特段良いというわけでもない。 話し方は淡々 […]
Continue reading第7話:声だけ元アナウンス学院生
声だけは、誰にも負けなかった。 彼女の名は、川原田瑠美(かわはらだるみ)。 専門学校でアナウンス技術を学び、磨き上げた滑舌と、よく通る声。 営業部に配属されたその日、彼女は自信に満ちていた。 ──この声で、取れる、かもし […]
Continue reading第6話:盗人青年の捨てゼリフ
──彼は、朝だけは強かった。 名前は、酒々井純太(しすいじゅんた)。 高校中退。 つまり最終学歴は中卒。 その後は新聞配達で汗を流してきた。 誰よりも早く起き、誰よりも早く町を駆け抜け、誰よりも早く疲れた。 そして── […]
Continue reading第5話:トーク上手なゴスロリ女
彼女は、最初から、異彩を放っていた。 名前は、アズミ。 カンゾウ営業室にふらりと現れたその日、誰もが目を見張った。 黒いゴスロリワンピースに、編み上げブーツ。 カチューシャにはレースとリボン。 パッと見、年齢は…… […]
Continue reading第4話:元・公立高教師の末路
彼は、最初から、少し浮いていた。 新巻坂太志(あらまきざかふとし)。 履歴書には「都立高校 元物理教師」とあった。 年齢は50代後半。 背筋はシャキッとしていたが、どこか「学校」という小さな世界でしか生きてこなかった、そ […]
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