第7話からのつづき ある朝、スマホを開いたリナは、たまたま流れてきたニュースに目を留めた。 【速報】 医学部専門予備校「メディカルデラックス」名誉総長、島田巧氏、不正疑惑浮上 大きな見出し。 そして── 『オレは何も悪く […]
Continue reading第7話:予備校紹介動画に出演
第6話からのつづき ──大学2年、冬。 リナは、少しだけそわそわしていた。 今日は、ファッション系YouTuber・ミサたちとコラボ撮影。 そしてその流れで、ちょっとした「予備校紹介動画」にも出演する予定になっていた。 […]
Continue reading第6話:りなリンゴ☆、ロックオンされる
第5話からのつづき ──大学2年の秋。 リナは、今日も静かに動画を撮っていた。 机に向かって、さらさらとノートに走らせるペンの音。 時折、カメラに向かってふわりと笑う。 (……まあ、無理せず、できる範囲で続ければいいよね […]
Continue reading第5話:りなリンゴ☆、じわり、ひろがる
第4話からのつづき ──大学1年、春。 初めて投稿した、たった2分の動画。 ある日の夜、リナはその再生数をぼんやり見つめていた。 ──10、30、50……。 ゆっくり、でも確かに、数字が伸びていく。 たった一人でも嬉しか […]
Continue reading第4話:りなリンゴ☆、はじまる
第3話からのつづき ──大学1年、春。 夕方の講義を終えたリナは、学食の隅にいた。 サラサラの髪を後ろで軽くまとめ、小さな顔にクリクリした目がちょこんとのぞく。 細い手でスマホをいじる姿は、どこか小動物のようだった。 ( […]
Continue reading第3話:りなリンゴ☆誕生
第2話からのつづき ──大学1年の春。 講義帰り、リナは学食の隅で友人たちと話していた。 「ねえ、リナってYouTubeとか興味ない?」 ひとりが、唐突に言った。 「え、見るのは好きだけど……」 リナが答えると、友人 […]
Continue reading第2話:小川莉奈と神崎麗衣
第1話からのつづき ──高校3年生、夏のはじまり。 定期試験が終わり、学校帰り。 リナと神崎麗衣(かんざきるい)は、制服のまま駅前のカフェに入った。 冷房のきいた店内。 二人はふぅっと一息ついた。 「やっと期末、終わ […]
Continue reading第1話:普通の地味な塾
──休日の午後。 パソコンを立ち上げると、画面に編集しかけの動画が立ち上がった。 りなリンゴ☆──小川莉奈(おがわりな)は、椅子に深く腰をかけながら、ふっとため息をついた。 (……なんか、受験生の頃を思い出すな) ふと、 […]
Continue reading第10話:文潮砲、着弾!
第9話からのつづき そして、数日後。 メディカルデラックスの会議室── カトウ社長とエゾエ教務部長は、新聞と週刊誌を睨みつけながら、頭を抱えていた。 ──『元カンゾウ塾長・島田タクミ、学歴詐称と女問題で炎上』 ──『破廉 […]
Continue reading第9話:怒涛の人生ガチャ講義
第8話からのつづき ──メディカルデラックス 校舎。 「──今日の講義はこれや!!」 島田タクミが、どや顔で黒板に大きく書き殴った。 『目指せ、打倒・東大医学部! 勝つための「人生ガチャ」必勝法』 教室、シーン── 生徒 […]
Continue reading第8話:名誉総長、暴走す
第7話からのつづき ──メディカルデラックス・総長室。 「……オレは、総長や」 島田タクミは、肘掛け付きの革製の椅子にふんぞり返りながら、改めて呟いた。 目の前には── 金色の額縁に収まった『名誉総長 辞令書』。 その横 […]
Continue reading第7話:名誉総長誕生
第6話からのつづき ──メディカルデラックス 応接室。 カトウ社長、エゾエ教務部長、そして営業部の数名。 その前に、島田タクミが、腕組みをしてドヤ顔で座っていた。 エゾエが、資料をめくりながら言った。 「……入塾者、50 […]
Continue reading第6話:父親たちの星
第5話 ──メディカルデラックス 校舎前。 「ねぇ、あれが“りなリンゴ⭐︎”の動画に出てた階段?」 「うん!写真撮ろ!」 女子生徒たちが、キャッキャと笑いながらスマホを構える。 ──だが、その裏側で。 彼女たちは、りなリ […]
Continue reading第5話:釣られたカモたち
第4話からのつづき ──数日後。 メディカルデラックス・営業部。 朝から、電話が鳴りっぱなしだった。 「はい、メディカルデラックスです──あ、資料送付ですね!かしこまりました!」 「はい、ご見学ですね──いつごろご希望で […]
Continue reading第4話:りなリンゴ☆登場
第3話からのつづき ──都心の高層ビル群の中 その37階にあるメディカルデラックス校舎。 その日。 島田タクミは、エレベーターホールで腕を組みながら待っていた。 (来る……) (本命が──来る!!) チーン。 エレベータ […]
Continue reading第3話:YouTubeコラボ作戦
第2話からのつづき ──池袋・飲み屋街の外れ。 島田タクミは、狙いを定めていた。 居酒屋からゾロゾロと出てくる、専門学生たち。 ヨレたパーカー、無地のトート、安そうな髪色。 (……おったな) 彼らは貧乏そうだが、声は […]
Continue reading第2話:レッドオーシャン
第1話からのつづき ──メディカルデラックス 営業会議室。 長机の前には、営業や広報のスタッフたちがズラリと並んでいた。 その中に、島田タクミの姿もあった。 教務部長・エゾエが、プロジェクターの資料を指し示しながら言った […]
Continue reading第1話:ケンブリッジ卒の男
──高層ビルが林立する都心の一等地。 その中にそびえ立つ、タワービル37階。 そこにあるのは、医学部専門予備校── メディカルデラックス。 通称、メディデラ。 年間の学費は最低でも800万円。 夏期講習や個別指導を加えれ […]
Continue reading第6話(完結編):勝手に勝利宣言
第5話からのつづき ──巣鴨・邁進塾。 邁進塾は、粘り強く耐えた。 誠実な指導を続けた結果、地域新聞の教育欄に小さな記事が載った。 【巣鴨の小さな塾、静かな人気──「一人ひとりを大切に」】 それを読んだ保護者たちが、少し […]
Continue reading第5話:怪文書とネットの誹謗中傷
第4話からのつづき ある日、邁進塾に通う生徒の保護者たちのもとに、次々と不審な封筒が届き始めた。 《注意喚起》 《巣鴨周辺に危険な塾が存在します》 《未成年を食い物にする悪質経営者の噂あり》 ──差出人不明の、悪意に […]
Continue reading第4話:静かなる反撃
第5話からのつづき ──巣鴨・邁進塾。 その日、犬堂シンヤは静かに、生徒たちを集めてこう言った。 「みんな、最近……この周りで変なことが起きてるよね」 生徒たちは顔を見合わせ、こくりとうなずいた。 犬堂は、少し微笑んだ。 […]
Continue reading第3話:邁進塾、包囲される
第2話 ──ある平日の午後。 巣鴨・邁進塾の周辺に、奇妙な空気が漂い始めていた。 コンビニ前にたむろする、やたら目つきの悪いスーツ男たち。 ビルの入口付近では、昼間からワンカップの日本酒やウイスキーをラッパ飲みするオ […]
Continue reading第2話:怒りの総動員
第1話 JR巣鴨駅から徒歩7分、古びた雑居ビルの3階。 そこに犬童が立ち上げた塾── 【邁進塾】 がひっそりとオープンしていた。 生徒はわずか十数人。 チューターは元カンゾウ組の大学生たち。 授業は、丁寧に進んでいた。 […]
Continue reading第1話:静かな退職
──JR高田馬場駅から徒歩5分。 『関東学力増進機構(通称・カンゾー)』本部ビルの総務部に、一本の退職届が提出された。 提出者の名は、犬堂慎也(イヌドウ・シンヤ)、34歳。 京大卒、塾講師歴10年以上。 週3回、数学を教 […]
Continue reading第3話:無理をしない贅沢
第2話からのつづき ──四月、ある平日。 沢田ユウコは、北千住駅のホームに立っていた。 特急「リバティけごん」の発車ベルが鳴る。 行き先は、日光。 (たまには一泊くらい、いいか) 座席に腰を下ろし、窓の外をぼんやりと眺め […]
Continue reading第2話:大げさな羊たち
第1話からのつづき ──JR池袋駅からバスで7分。 北池袋にある伊東予備校・池袋校の事務室。 午後2時。 外は春の強い風が吹き荒れ、校舎の窓ガラスがカタカタと鳴っていた。 コピー機の前で、学生アルバイトの女子がぴったりメ […]
Continue reading第1話:無理してる人々
──JR池袋駅からバスで7分。 北池袋にある伊東予備校・池袋校の事務室。 「……また島田先生、やらかしたらしいよ」 休憩中、同僚の女性スタッフが囁く。 沢田ユウコは、パソコンの画面から目を離さないまま、相槌だけ打った。 […]
Continue reading第10話:坂井ダイスケの出世
第9話からのつづき ──その少年の名は、坂井ダイスケ。 下町の底辺高校に通う高校3年生。 成績は、下から数えた方が早い。 進路希望は「大学ならどこでも」と書き、担任から苦笑された。 しかも、ダイスケの家は貧しかった。 父 […]
Continue reading第9話 :石川ユリナの転身
第8話からのつづき ──初夏の午後。 陽光がまぶしく、青々とした木々の影がアスファルトに揺れている。 島田タクミはカンゾウに向かう道を歩いていた。 煙草のフィルターを唇に挟み、片手で100円ライターを弄びながら。 保育園 […]
Continue reading第8話:森村ヒナタの理転
第7話からのつづき ──春先のことだった。 「こんにちは。体験授業を申し込みました、森村ヒナタです」 カンゾウの塾長室のドアが開いた。 島田タクミは、椅子にもたれたままチラリと顔を上げる。 高校の制服に、黒髪ストレートの […]
Continue reading第7話:左海シュンスケの改心
第6話からのつづき ──秋。 塾長室に、菓子折りが届いた。中には、銀座・虎屋の特製羊羹。箱の隅には小さな名刺。 《左海歯科医院 院長 左海達夫》 「ほう…ついに来たか」 島田タクミは、椅子にふんぞり返りながら、タバコに火 […]
Continue reading第6話:佐野原リリカの演出
第5話からのつづき ──春。 その日、塾長室のドアがノックされた。 「失礼します。体験授業を申し込みました、佐野原リリカです」 カンゾウの塾長・島田タクミは、チラッと顔を上げた。 長い髪をひとつに結び、真っすぐな瞳をこち […]
Continue reading第5話:村瀬カイトの再起
第4話からのつづき カンゾウの浪人コースの初日、島田タクミが教室を見回して言う。 「お前ら、全員“落ちこぼれ”だ。だが、見方を変えれば、“落とされた”んじゃない。自分で勝手に落ちただけだ」 このセリフにムカッときた村瀬カ […]
Continue reading第4話:白石ミサキの進学
第3話からのつづき ──高円寺。ネオンが瞬く夜の街。 キャバクラ『Café de Lune』。 島田タクミは、安いウイスキーをちびちび舐めながら、いつもの席に座っていた。 「あら、また来てくれたんですか? 指名料、もった […]
Continue reading第3話:村井リクトの法進
第2話からのつづき ──その日、島田タクミは不機嫌だった。 夕飯用に買ったスーパーの「おでんパック」。 「お得セット!」と書いてあったくせに、中身を開けてみたら── こんにゃく、白滝、そして、やたらでかいちくわぶ。 タク […]
Continue reading第2話:鈴木マナの現実
第1話からのつづき ──数日前、中野の安キャバにて。 「将来は絵の道に進みたいんです」 島田タクミの好みド真ん中、陰のある美大生キャバ嬢が、そう言った。 島田は、その夜、めずらしくマジメに口説いた。 だが── 「おじさん […]
Continue reading第1話:田所ユウトの覚醒
──田所ユウト。 その名を聞いて、何かを思い浮かべる人間は、当時のカンゾウ(関東学力増進機構)にはひとりもいなかった。 成績は中の下。 授業には出ているが、質問はしない。 真面目でも、不真面目でもない。 いるようで、いな […]
Continue reading第20話(最終話):春香塾長
第19話からのつづき 夜の空気に、冬の匂いが混じる。 コートの襟を立てながら、駅前の雑踏を歩く彼女の姿は、どこか堂々としていた。 ──広瀬春香、33歳。 いまでは、年商3億の教育系企業『spring』の代表取締役であり、 […]
Continue reading第19話:証言の朝
第18話からのつづき 約束の場所は、新宿御苑近くの喫茶店だった。 駅から5分ほど歩いた場所にある、どこか場末感のある昭和風の店。 カウンターの奥からは、八神純子や杉山清貴の、どこか懐かしい80年代のヒット歌謡が流れていた […]
Continue reading第18話:週刊文潮からの取材依頼
第17話からのつづき 四ツ谷・麹町付近にある週刊誌『週刊文潮』編集部。 記者のヤナギは、朝のルーティンとして、話題のYouTube動画をまとめたRSSをチェックしていた。 「お、また伸びてんな、“ハルカちゃんねる”……」 […]
Continue reading第17話:動画、アップロード
第16話からのつづき 部屋に残された、たった一枚の名刺。 それが、すべての“引き金”だった。 ──あの人は、私を忘れていた。 それが、悔しいとか、悲しいとか、そういう感情とは少し違っていた。 けれど、“忘れられる側”の痛 […]
Continue reading第16話:夜の街で、再び
第15話からのつづき 新宿・歌舞伎町。 夜の雑踏に、光と音と酔いが混ざり合っていた。 ハルカは、TOHOシネマズの前を通り過ぎ、職安通り方面へと歩いていた。 このあたりには、“トー横”と呼ばれている場所がある。 ほんの少 […]
Continue reading第15話:投稿ボタンの先に
第14話からのつづき その日、ハルカは最後の「夜」を見届けるつもりで、新宿に向かった。 トー横。 東宝ビルの横。 かつては、そこが居場所だった。 ボロボロのジャージ、缶チューハイの空き缶、タバコの吸い殻。 誰かが脱ぎ捨て […]
Continue reading第14話:再生ボタンを押した夜
第13話からのつづき 「──ねぇ、それ、ハルカちゃんが書いたの?」 東宝ビルの横、タバコの匂いが混じる風のなか。 ひとりの女の子が、スマホの画面を見せながら声をかけてきた。 そこには、トー横仲間が歌った動画のコメント欄。 […]
Continue reading第13話:少し役に立てた気がした
第12話からのつづき 「ねぇ、あの子、泣いてるよ」 新宿東宝ビルの横──トー横通りの隅っこで、膝を抱えてうずくまる女の子。 年齢はハルカより下か、同じくらいか。 髪の毛はボサボサで、コンビニ袋を抱えていた。 「どうしたの […]
Continue reading第12話:ようこそ、トー横へ
第11話からのつづき その夜、新宿は風が強かった。 東宝ビルの巨大なゴジラヘッドが、街の明るさとは裏腹に、不気味に浮かび上がっていた。 「……ここが、トー横」 正確には、“新宿東宝ビルの横”。 略して“トー横”。 ビルと […]
Continue reading第11話:新宿・トー横
第10話からのつづき 昼夜逆転。 スマホの中にばかり目を向けて、配信動画やSNSを眺める時間が増えた。 かつてのクラスメイトが大学の写真を投稿している。 カフェでのランチ、サークルの飲み会、新しい友達との笑顔。 スクロー […]
Continue reading第10話:滑り落ちた春
第9話からのつづき 春は、静かに過ぎていった。 合格発表の掲示板の前に、ハルカの名前はなかった。 スマホを何度更新しても、結果は変わらなかった。 滑り止めの私大すら受けていない。 ──落ちた。 「浪人か……」 呟いた声は […]
Continue reading第9話:ファミレスの夜
第8話からのつづき ──それは、なんでもない夜の、なんでもないファミレスだった。 ハルカは新宿駅西口の改札を出て、TOHOシネマズ方面とは反対側── いわゆる「ビジネス街寄り」の静かな通りを歩いた。 少し歩いた場所にある […]
Continue reading第8話:名刺と千円札
第7話からのつづき ──午後10時。 カンゾウの自習室は、いつもより静かだった。 試験が終わったばかりということもあり、生徒の数はまばら。 時計の針の音が、やけに大きく聞こえた。 「……広瀬さん、そろそろ閉館ですよ」 受 […]
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